お盆ってことで、父親に着いて、九州の真ん中の方の県まで帰省をしてるんですよ。
今までは自分が受験生だったってことやら、コロナ禍ってのもあって規制を自粛してまして、かなり久々の規制になりました。
このスレに書き込みをするような人間ですので、もちろん夏の帰省で、なおかつ街灯の少ない田舎ともなると心が怪を求めて疼くんですよ。
だから、昨日は朝からバックパックに水を持って、単身山に突っ込んで行ったんです。
のどかなもんで、直射日光さえ避ければ涼しく心地の良い山の中を歩き続けていました。
(道すがら寺でもあれば面白いんだが)と、特に下調べもしていない登山中の山の頂に思い馳せつつ、歩き続けていました。
今思い返すと、虫が少なかったように思います。
イヤホンで音楽を聴いていたとはいえ、この時期にしてはセミが大人しかったように思います。
清流しか流れていないとはいえ、虫に刺されることもありませんでした。
結局、山頂までは特段何かがあるというわけでもなく、あっさりと着いてしまいました。
ま、こんなもんか。
と、帰路につこうと振り向いたところ、帰りの一本道の真ん中に、1人の老人が佇んでいたんです。
まぁ、生えてる木々はそこそこに手入れされている様子ですし、辺鄙なところではありますが、いくつかの朽ちかけの民家も無くはないので、人がいること自体には疑問を抱きませんでした。
まま、疲れてますし、クーラーの効いたばあちゃん家で涼みたいのもあって、会釈程度でさっさとその場を去ろうとしたんです。
「もし」と私が4~5メートルは離れたところに、見た目の割に通る綺麗な声で、私に声をかけてきました。
なんだろうと振り返ると、1メートルにも満たない距離に彼が立っていました。
声の距離は確かに遠かったのに、目の前に居ました。
おっほ、とかなんか、変な声を出して驚いた私を気にする様子もなく、彼は続けて「水やら飯やら、なにかありませんかね」と言ってきまして。
「あ、水とかですか、パンならありますけども」とバックパックに入れて置いた携行食を手渡すと、謝辞も何も述べずに、回れ右して歩き出したんです。
(失礼だな)とは思いましたけども、その時は好奇心の方が勝ったもんで、彼の後についていったんです。
着いた場所は、庭は草がボーボー生え、家の壁にはツタが這っているようなボロボロの廃屋でした。
「○○○(聞き取れなかったですが、ゲゼマ?みたいなことを言ってました)、入りますよ」と声をかけ、玄関の蔦をものともせずに戸を開けて、私からパンを貰い受けたおじいさんが中へ入っていきました。
なんだ、同居人に食べ物をあげようとしてたのかと思った時に、凄まじい臭いが鼻を突きました。
道路で轢かれて放置された動物のような臭いが、あの老人の入っていった廃屋から臭い出したんです。
まさか死体でもあるのか?と思っていると、開けっ放しの扉の向こうから何やら声が聞こえてきまして
「……食べないかん」
「そんなもんは食えん」
「でも………、今はもう……」
「お前の……知らん。」
「でも………」
「外におる奴を連れて来ればいい、シャガイミ?には足りるから…」などと意味の分からない会話が聞こえてきました。
外にいるやつって俺のことか?と何やら面倒なことに巻き込まれそうだと察知した私は、逃げようか、事の顛末を見届けようかと迷っていました。
するとスっと玄関の方からボサボサの白髪が見えました。
先の老人も白髪でしたが、禿頭が見えるような短さだったので、玄関から見えたその長い白髪に興味を惹かれて動きが止まってしまいました。
「ほら、おるじゃないか。まだ肉付きの良さそうな奴が」と、覗いてくる顔には、肉と皮がありませんでした。
焦がした肉のような見た目の頭蓋骨に、ボサボサの髪が張り付いた頭が、老人の入っていった廃屋から現れたのです。
あ、これはマズイ。
ひと目でそう思わせる化け物が現れて、私は脇目も振らずに駆け出しました。
その登山道はぐねぐねとうねっており、幾重にもS字カーブが折り重なっているかのような作りになっていたので、本当に危険ですが、道を素直に走るようなことはせず、道と道の間の急勾配の茂みを転げ落ちるように逃げ帰りました。
川に沿って走り、茂みを抜け、そんなこんなしていると、さっきまであった道を見失ってしまいました。
最悪なことに、スマホも圏外で使い物にならず。
戻って道を探そうにも、かの化け物が待ち構えていないという保証もない。
八方塞がりになってしまった私は、身体の疲れもあり、しばらく途方に暮れていました。
段々と日が傾き、空が若干赤みを帯びてきたので、仕方なく立ち上がり、昔どこかで聞いた『遭難した時は、時かく曲がったりせずにひとつの方向へ歩き続けろ』という知識を元に、スマホのアンテナが立つことを祈りながら、森の中を歩き続けました。
すると、1本の獣道らしきものに遭遇したので、その道に沿って歩くことにしました。
歩いていると、道の端に赤い帯?のようなものを括られた、だいたい30センチくらいの石が等間隔で並べられている場所に行き着き、どうやらこの道が獣道ではないということに気が付きました。
何とか人のいる場所に戻れるかもしれないという事実は、私の心を奮い立たせました。
足取りが確かなものになったと自覚できるくらいには、元気が出ました。
喉の乾きや、打ち身の痛さの感覚も戻って来る程に、段々と冷静になっていきました。
そうして日が暮れそうになるくらいまで歩き続けていると、山の奥にひっそりと立つ神社のような所にたどり着くことが出来たのです。
その神社の境内に、私を待ち構えるかの如く佇んでいた住職に『君、良く来たね。早くこちらへおいでなさい。』と声を掛けられました。
あぁ、間違いなく助かった!俺はまだ生き延びることが出来る!と確信されるような、優しい声音でした。
残りの気力を使って、彼の元まで駆け、たどり着くや否やくずおれた私を、お坊さんは優しく抱き起こしてくれました。
『人は時に、自分の意思とは関係なく理を外れることがあります。
君は運が良かった。
自分の日頃の行いに感謝しなさい。
君の会ったものとは違って、まだ帰ることができるからね。
でも、もう無闇に山に入ってはいけませんよ。
ひとたび理を外れたものは、また理から離れやすくなりますからね。』
と、私の目をしっかりと見据えて言うと、お坊さんはお経?を唱えながら私の目を覆い隠してきました。
気がつくと私は、河川の傍に横たわっていました。
山の麓の馴染みある場所でした。
陽はかの寺にたどり着いた時よりもずっと高かったので、
「あぁ、気絶したまま1日経ったのか…?」
と思いました。
殆ど使い切った体力で、祖母の家までたどり着くと
「あれ?○○(私の名前)、随分早かったね。山は結局諦めたんかい?」
と祖母が声をかけてきました。
どうやら僕は、山を登り始めた時から理から外れていたようです。
お盆ということで気が緩みがちでしょうが、山に入る時はお気をつけください。
私のように運が良いとは限りませんので。
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