友人から聞いた話。
4年前の話。
俺は友人のAとBの3人でドライブに出かけた。
車を運転するのはA。
助手席に俺が座り、後部座席にBが座っている。
目的地は特になく、気の向くまま気のすむまでドライブしようということになっていた。
途中で山道を走ることになり、道は狭く、ところどころにヘアピンカーブも現れる。
運転するAは慎重に山道を登って行った。
途中にある休憩所に車を停めて、10分ほど休憩し、Bは
「夕飯どうする?」
と俺達に問いかけた。
時刻は午後7時で、だいぶ遅い時間だった。
「こんな山道に飲食店あるんか?」
俺はそう言ったがAは笑いながら
「大丈夫やろ、とりあえず辺り探すべ」
と言い、車のエンジンをかける。
俺たちは山道をさらに登り、しばらく進むと、掠れた字でそばと書かれた看板と一軒の古民家が前方に見え始めた。
「あそこ、そば屋なんかな」
俺は看板を指さしながら言った。
「そばは腹に溜まるから、ちょうどいいんちゃう?」
Bがそう返す。
俺は車を運転するAに
「ここ寄ってく?」
と尋ねた。
Aは頷き、車を停車して俺達はそば屋に入った。
店内は和風な内装で薄暗く、入口近くにはテーブル席が、左側には厨房室、右奥には畳が敷かれた2つの個室があった。
店員は見たところ1人しかおらず、その男性店員に個室に案内され、俺達は席に座った。
Bがメニュー表を開き
「何にする?」
と尋ねるので俺は天ざるそばを注文し、Aは山菜そば、Bは天丼を頼んだ。
料理が来るまでの間、俺達は雑談をしていたのだが、突然Bが
「何か聞こえない?」
と言い出した。
店内には俺達の会話以外、BGMは流れてないし俺らと店員以外誰もいなかったためか、確かに妙な音がすることに気がついた。
ギチギチ…といった何かを噛み砕くような音であった。
Aが
「ほんまや」
と辺りを見渡し、俺も
「確かに聞こえるな」
と言いBと顔を見合わせ、
「何やろうな」
と俺が言うと、Bは
「ネ…ネズミやろ」
と言った。
店内には俺達しか客がいないため、Bはきっと、ネズミが木柱か何かを噛じってる音だろうという風に結論づけた。
「そうなんやろうけど、何かやけに不気味やな」
とAは言った。
しかし、音は止むこともなく、むしろ大きくなっていく。
Bは
「ちょっと、おかしいってこれは!」
と身震いしていた。
ギチギチギチギチギチギチと音は徐々に大きくなっていき、俺は怖くなって
「注文断って早くこの店出よ」
と2人に伝えた。
しかし、Aは
「別に大した事やないやろ」
と言い動こうとはしなかった。
Bが
「いやや、怖いって」
と涙声で言ったところで音が止み、やっと店の人が料理を持ってやってきた。
店員は
「………どうかしましたか?」
と聞き、何も聞こえていなかったかの如く、普通だった。
俺は
「いや、何でもないです。変な音が聞こえるもんで」
と答え、料理を受け取り、食べ始めた。
Bはまだ、
「ほんまおかしいでこの店、あんな変な音聞いたことないもん」
と言っているが、Aが
「もう気にせんと食べな。美味しいで、このそばは…」
とBを慰め、Bもしぶしぶと納得しそばを食べることにしたようで、俺もあの音に少し気味悪く感じたものの、そばの味は美味しかったので満足はしていた。
その後、俺は奢ってやると2人に言い、会計を済ませようしたが、店員の姿が見当たらない。
何度呼んでも誰も来ず、俺は2人に店員がいないと告げた。
すると、Bは
「厨房におるんちゃう?」
と言い、俺達は厨房に入る事にした。
厨房のドアを開けると中には誰もおらず、厨房には洗い場や冷蔵庫などの調理器具があり、電気は付いてたものの、人は見当たらず不気味さを感じた。
「誰もおらんやん。どこ行ったん?客おるのに」
と俺が2人に言うと
「何やねんこの店…」
とBも不満を口にした。
とりあえず代金だけ置いて帰ろうとAが言ったので、厨房から出たのだが、さっきの店の雰囲気とは違う気がした。
真っ暗でわずかに内装の造形が見えるくらいで、何故か辺りに物が散乱している様子だった。
AとBは気味悪がり俺は
「停電か?でも厨房の電気はついてるよな?」
とAに言い、Aは
「とりあえず外に出よう」
と怯えるBを連れて俺達はスマホの光を頼りに店の出口を探した。
出口を探してる最中に、またギチギチと音が聞こえてきたが、音の出所は分からなかった。
すると、出口が見つかり俺達は店から外へと脱出した。
「店員おらんやんけ!真っ暗やった!しかも変な音聞こえた!」
Bはそう不満げに言った。
そして
「こんな店二度と行かねえからな俺!まじコワキモい店やわ」
とも言った。
後から出てきたAは
「急げ!車に乗れ!」
と走り出し、俺は
「どうしたん!?」
と問うが、Aは
「いいから、走れ!」
と焦った表情で怒鳴った。
訳が分からず俺らは急いで走って車に辿り着き、Aが運転席に座ったので俺とBも後部座席へと乗り込んだ。
「急に何やねん!まじで!」
とBは文句を口にするが、Aは真剣な眼差しで無言だった。
そして、Aは車を発進させ、山道を下った。
俺は
「さっき何であんなに焦ってたん?」
と。
するとAは
「あの店に出る直前に見たんよ。俺。あの音の正体」
と言い出した。
「正体?」
俺はAにそう聞いた。
「俺らがいた個室席から早歩きで近付いてくる人影がいたんや」
Aはそう言ってバックミラーを見て確認したようだが、
「何も来てなさそうやな」
と呟き、そしてまた運転に集中しだした。
「人影?店員やったん?」
Bがそう言うとAは
「最初は何なのかはわからんかったが、出口の直前に見えたんや。姿はさっきの店員やが、何より顔がやばかった。目は真ん丸のデカい黒目、耳元まで裂けた口、鼻はなくて、そして歯がな、肉食獣の牙みたいに鋭くて。そいつがな、その牙で歯軋りしとったんよ。あんな恐ろしい顔した人間見たことあらへんわ」
と震えながら話してた。
Bが
「え……じゃあ、あの店員は霊的な何かってことか?」
と聞くとAは
「知らん。けど、あの暗闇にいた奴は間違いなく人間やなかったと思う」
と返した。
それ以降、俺達は何も話さなくなった。
その後、何事もなく山を下って街までたどり着き、Aの家の近くのコンビニで解散することになった。
それからあのそば屋の付近には行っていない。
現在はどうなっているのかはわからない。
あの時、店を出るのがあと数秒遅ければと思うと、今でもゾッとする時がある。
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