以前、ケータリングのバイトをしていた時の話
その時は弁当数個と飲み物を届けに行った。
普段だとお断りする位に配達可能範囲からは離れていたんだ。
でも私の地元だったので帰りがけに届けられると判断して、今回特別という事でお届けする話になった。
創立120年以上の小学校の近くのアパートで迷いはしなかった。
だが、少し気になる事もあった。
そのアパート、一人住まいのワンルームだった。
まぁ翌月払いなので、一回〜数回支払いの締め迄注文だけして払わないで注文受付停止される人も年に1人くらい出る事もあるが、だいたい暫くするとお片付け業者のトラックが横付けされる事を幾度か体験した。
この住民が該当するかどうかは未だ分からないし、そうであっても保険で対応するのだろうから深入りは止めようと思い部屋の呼び鈴を押す。
・・・・出ない。
返事もない。
いやいやお年寄りの場合、耳が遠かったり動きに少々時間が掛かる事もある。
ウーバー等ではないので、廃棄とか持ち帰りも無いので暫く、根気強く待った。
『はーい』
少し曇った女性の声と共に長らく開かないと思った扉はゆっくりと開いた。
年は70代位と伺える細身の女性が玄関に現れた。
玄関を見て驚いた。
女性の背後から積み上げられた衣装ケース
4〜5段位積み上がって、女性の丈を超える高さが足の踏み場も無い程広がっており、ワンルームの部屋の何処に住んでいるのか不思議に思えた。
大方、一時的な引っ越しでこの部屋は荷物部屋なのかな?
しかし荷物多過ぎないか?と些細な疑問はあったが、ここで時間を取られてもあくまで今回は帰宅の序だ。
サービス残業なのだ。
こんばんわ、では先ずお弁当です。
余計な邪推は腹の奥にしまい込んで、営業スマイルでお弁当の袋を細い女性の手に渡すと女性は一旦、部屋奥に引っ込んだ。
その時、
「ゴトッ」
と軽いプラスチックの物音がしたので不意に音の方向を見た。
そこには衣装ケースの中で蠢く大量の亀がもがいていた。
亀の上に亀が乗り上へ上へ蠢きあっていたのだ。
一つの衣装ケースで暴れ出したら、次々と積み上げられた衣装ケースの中でゴソゴソガタガタ黒い主達がまるで助けを求めるように動き出した。
それは池に湧いた波紋の様に広く深く部屋に響き渡り始めた。
一刻も早くここから逃げたほうが良い。
ただの亀好きとはとても思えない数だ。
そう思い、玄関のドアノブを握りしめながら挨拶をしながら家主の顔を見上げた。
その時、私は見てしまった。
細い腕が握りしめていた亀が爪が食い込みもがいている姿を。
コメントを残す