私の実家は所謂田舎の旧家でリノベーションしているとはいえ大きな段差が残っている。
玄関の上がり框もその一つで40cm程もある為、式台として磨き上げられた立派な一枚板がその中間辺りから50センチほどせり出して生えている。
この式台の端に物を置くと悪夢を見る。
悪夢は決まってその位置を踏む所から始まり、足の裏にぐんにゃりと丸く突き返す様な違和感を覚える。
そのままリビングに行くと何故かリビングの引き戸が開いており、険しい顔をした祖父が椅子に座ってこちらを見ていた。
間もなくしてどこからかダダダダダダと重い何かが走り回る音がし、ずんぐりとした何者かリビングにも入ってくる。
私が座り込んだまま身動きも取れずにいるとそれは他の部屋をまた足音を響かせながら何かを探し始める。
どうやら私が見えていないらしかった。
私はもう一度あの位置を踏みに行くか悩み、踏めばまた足音を響かせながら何処からかそれが現れ同様の事があって夢は終わる。
また、踏まずに祖父に2、3言葉を掛けると、祖父はチラリとこちらを見るばかりで何も話そうとはしないままそこで夢は終わる。
最初に夢を見た頃、祖父は健在で夢について聞いたこともあるが、
「よくは知らんが、婆さん(鬼籍)の家系が馬関係や神事関係で何かをしたらしい」
「長女の婆さんを追ってきており、嫁いだ家にも着いてきた為、あの位置には俺がタオルを置いている」
「お前がその上からヘルメットなんぞを置くからそういうことになるんだ」
と叱られた。
それからもうっかり物を置くことがあり、その度に同じ夢を見た。
鬼籍に入った今も相変わらず険しい顔の祖父は出てきており、返事こそ返してくれないが会えるのが嬉しかったので私もあまり気にして居なかったが、先日また夢を見た際に恐ろしい思いをした。
一度それが去った後、私はもう一度その場所を踏みに行った。
足音を響かせながらそれがまた現れ、恐怖に慄きながら夢から醒める…
起きてからそれがどんな姿だったか思い出そうとすると何故かダース・ベイダーに置換されており、顔は恐ろしかった気がしたので下から順に思い出そうとすると背中に視線を感じた。
そう言えばここは私のベッドではない。
いつも夢で逃げ込むリビングにいる。
記憶を辿るがパジャマを着ているし、私は確かに自室で寝たはず…何故…そう言えば祖父は室内でも杖をついていたのに朝だけは杖をつく音がしなかったな…
ガチャリガチャリと金属や漆器が擦れて立てる音とフーフーと荒い吐息が後ろから聞こえる…ダダダダという足音を最後に私は気を失った。
目が醒めるとやはりリビングの床に寝ており、玄関を確認すると件の位置には私のヘルメットが置かれていた。
今朝のこと、昨日帰省してきた妹が祖父と武者鎧が出てくる夢を見たと話していた。
思わず玄関を見ると上がり框や式台にはキャリーケースとバッグが所狭しと置かれている。
私は式台から物をどけると妹に
「式台を踏んだんだろう?玄関を片付けろ。顔を思い出すのは辞めろ」
と告げて自室にいる。
明らかに私より夢の内容を鮮明に覚えているし、どうやら見付からないという訳では無く祖父に庇われた様だ。
そう言えば祖父は
「長女である祖母に着いてきた」
と言っていた。
父は一人っ子だったから、憑かれているのは家や長男である私ではなく妹かも知れない。
何か確認する方法はないだろうか?
ちなみにこの話は友人にした事もあるのですが、そのうちの一人が面白い事を言っていました。
皆さんは式台の端と言われてどちらを想像しましたか?
正解は左なのですが、皆一応に左を想像したそうです。
大抵の人間は軸足の関係で右足から段差を上がるそうで、勿論その場の人間も皆右足から上がるそうなのですが、不思議と何故か左側だと分かる様ですね。
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