貧乏神というのはこの世に実在するのかもしれないなと感じた話
俺の叔父に当たる人物は不動産管理の会社に勤めていて、俺の住んでいる市のあるアパートの管理を担当していた。
そんな叔父から聞いた話だ。
そのアパートはもうかれこれ築20年以上経つとか。
そのアパートの一室に過去に4世帯入って全員が何らかの金銭や失業のトラブルに見舞われた一室がある。
最初は4年くらい、4人家族が住んでいたらしい。
ごく普通の一家だったとのことだが、住み始めて3年くらいが経過した頃、90年台の不況の煽りを受けてか、その家族の父親の会社が経営破綻したとかで父親が失業者となった。
そこからは世間でごまんとある悲劇だが、再就職が上手くいかず、消費者金融を頼るが借りた金が返済できず、家賃は滞るようになり、借金取りが尋ねて来たりで隣室の住人から苦情が入り、叔父はやんわりと引き払って欲しい旨を伝えたらしい。
その一家は提案を受け入れて引っ越して行ったとのこと。
その後3年くらい空き部屋だったとのことだが、その後に若い夫婦が越して来た。
何でも男の方が会社の転勤で隣町の工場で働くことになったらしい。
そこから2年くらいが過ぎた頃。
最近男の家賃が滞納していること、ここ2週間くらい男の姿を見なくなったこと、部屋から何か異臭がするとかで様子を見て来てくれないかと叔父に話があったらしい。
様子を見に行った叔父が見たのは、げっそりと痩せ、生気のまるで感じられない男の姿とゴミだらけの部屋だったらしい。
話を聞くと酒とギャンブル好きが祟り、離婚して妻が出て行ったこと、会社をクビになり、パチンコと酒に明け暮れ、貯金は無くなった。
生活保護を申請したがパチンコで擦ったなんて話をしたものだから市の担当者は生活保護の申請を拒絶。
食うものもなく再就職も叶わず、ただただ途方に暮れていたとのこと。
そこから男の実家へ連絡が行き、男の家族が菓子折り持って会社に謝りに来たとか。
男がそのまま部屋を追い出されるような形で出て行ったものだから、叔父達はそのゴミだらけな部屋の清掃と復帰をやったらしい。
(壁紙の張り替えのような作業は業者がやるとのことだが、大まかな清掃であれば会社内でやってしまうとか。)
その時、部屋の押し入れの戸に人型の染みを見たらしい。
まるで大柄な男がしゃがんでそのまま背中を押し当てたような、薄黒いシルエットの染み。
丁度小文字の i の形のようだったという。
男が住んでいた頃は何故か押し入れの前に本棚を置いていたらしく、先日の訪問時は不思議に思ったらしい。
叔父は男が汚したのを隠していたんだな、とその時は思ったとのこと。
対象の汚れはプロの仕事でピカピカに消えたらしい。
そこから暫くして、今度は夫婦と小学生くらいの子供の3人家族が越して来たらしい。
しかし、運の悪いことにその後にリーマンズショックが発生。
夫の方が整理解雇されたとかで直ぐに出て行った。
部屋の現状復帰等の確認の為、再び部屋を訪れた叔父はまた押し入れの戸に人がしゃがんだような染みを見つけたとか。
清掃費用の処理等の関係で入居前の内見時の写真との見比べと住人にメールで確認したところ、生活してる内に出来てしまったもので間違いないことが確認できた。
この時叔父は違和感を覚えよくよく染みを見てみたが i の形の頭にあたる部分に・.・ のような、より色の濃い汚れがあることに気が付いてなんとなく顔みたいで気味が悪いと感じたらしい。
それから結構な期間が空いて、6年くらい前、今度は外国人の出稼ぎ労働者2人組の男がルームシェアみたいな形で住み始めたらしい。
詳しいことは知らないがここも短期間で出て行ったとか。
日本語に不自由だったこともあり、詳しい話は何もしてくれなかったらしいから詳細は分からない。
ただ、その部屋にはまたもや i の形で・.・みたいな顔の染みがあったとか…
その染みを見た時、叔父はそこに貧乏神でもいるんじゃないかと本気で思ったらしい。
部屋の角に座り、押し入れを背にじっと住人を見つめる貧乏神の痕跡なんじゃあないか。
叔父は酒の席でそんなことを言いながらこの話を締め括った。
事故物件って訳ではないが4世帯が住みその誰もが不幸な目に遭った部屋。
対象の部屋は今も普通の値段でピカピカに清掃され新しい住人を待っている。
人死にがあった訳でもないが、これから住む人には絶対に告知されることのない、何となく気味の悪い、これから引っ越しをする人には洒落にならない怖い話。
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