ある初夏の日、関東の小さな海辺の町での出来事である。
小生その町で生まれ育ったが、就職で都会へ出てしまった。
郷里を離れて久しいが、久しぶりに母校の同窓会があり、出かけて行った。
両親も鬼籍に入り、実家もすでに無いのでその日は会場近くに宿を取っていた。
宿に荷物を置き(といっても着替え程度だが)、一休みしてから同窓会に出かけた。
普段は飲まない方ではあるが懐かしさもあり、その夜はしこたま飲んでしまった。
宿に戻った時は、もう日付が変わろうとしていた。
とりあえず風呂に入ってこようと、着替えを持って廊下に出た。
さて、風呂に入るとそこには若い女がひとり。
湯船の真ん中にぽつんと浸かっていた。
当然驚くところだが、ひどく酔っていたためか
「ああ、人がいるな・・」
と思っただけで、洗い場の椅子に腰を下ろした。
体を流してから、小生も湯船に浸かった。
女はまだ、湯船の真ん中にいた。
「今日は暑かったねえ」
女は小さく
「ええ」
と答えた。
小生が同窓会で久しぶりに帰ってきたことを話すと、女は
「そうですか」
と返してきた。
湯船から上がり、体を洗ってから風呂を出た。
部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、少し酔いが醒めてきた。
と同時に、正気に戻った。
・・あの女は一体何だ?
なぜ湯船の中に女がいたのか?
しかし同時にものすごい眠気に襲われた。
部屋にたどり着くと、敷かれていた布団の上に倒れこんだ。
目が覚めたら、すでに明るくなっていた。
朝食は食堂で取ることになっていた。
顔を洗い、浴衣のまま食堂に行った。
ちょうど朝食が始まる時間になっており、何組かの先客がいた。
思わず昨日の若い女を探したが・・当然いない。
ゆっくり食事を取りながら、入ってくる宿泊客を注意深く観察した。
しかし、やはりそれらしい女はいなかった。
この出来事は、今でも心のどこかに引っかかっている。
とはいえ自分なりの結論として、こう考えて納得することにした。
あの日、ひどく酔っていた小生は、間違えて女湯に入った。
そこにいたのは、(若い女に見えたが)子供だった。
男が入ってきたが、どうしていいかわからなかった。
で、男が出ていくまで湯船の中で待っていた。
とまあ、こういうことだったのであろう。
しかし、あんな遅い時間に子供がひとりでいたのだろうか。
いくら酔っていたにしても、女湯に間違えて入って中の女と話すなんてありえない。
とまあ、やっぱり釈然としない部分はあるのだが・・・。
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