大学生二年のときの話。
俺は夏休みの間限定である引っ越し屋でバイトしてたんだけど、その会社には変な決まりごとがあった。
事務所にまっ黒い冷蔵庫があって、そのドアにはでかでかと注意書きが書かれたA4の紙が貼ってあった。
『このドアを”閉めて”はいけない』
開けっ放しにしてはいけないならわかるが、なんで閉めてはいけない?と思ったけれど、事務所の誰に聞いても理由は教えてもらえなかった。
かえって所長に
「中が覗ける程度に開けておくこと」
って強めに言われる羽目になった。
しかも、そのとき冷蔵庫は現役で使われていた。
開けっ放しにしたら冷えないじゃないか、と思ったけど。
実際それで困ることはなかった。
飲み物はしっかりと、夏場なのに飲めば凍えるほどに冷えていた。
「もし閉まっていたのなら、”それ”が勝手に開けるまで。決して開けるなよ」
そう先輩にも言われたけれど、”それ”が何だったのかは最後まで教えてもらえなかった。
もし閉まっているのを開けたらどうなるのか、今でも分からない。
普段は和気あいあいとした雰囲気の、引っ越し屋では珍しいくらいみんな優しい職場だったのに、その話をする時だけものすごい真顔になるのが、何とも言えず気持ち悪かった。
ただ、それだけの話。
コメントを残す