自分が小学5年生の時の話。
時期は確か夏休みの中旬。
朝一番からやることがなかったから、取り敢えず近くの友達の家を順番に周って遊べるやつを探した。
でも珍しいことに声をかけた全員から遊べないって断られて、しかたなしに少し離れたところに児童館に向かった。
空調は効いてるし、もしかしたら少し遠くに住んでいる友達の誰かが遊びに来てるかもしれないなと思って。
児童館に入って広い館内を見渡してみたけど、結局友達は一人もいない。
でも代わりに、同い年位の見知らぬ男の子が一人居た。
自分の住んでいた地域は少し田舎で、同じ小学校に通っている生徒の数は少ないからほとんどの生徒の顔は見たことがある。
だから全く顔を知らない同年代の子供ってのが珍しくて
自分「君はどこから来たの?」
男の子「隣の学区から」
自分「一緒にゲームしない?」
男の子「うん」
確かこんな会話をして、とんとん拍子に一緒にモノポリーかなんかで遊び始めた。
日がとっぷりと暮れて、自分たち以外の子供たちが誰もいなくなった当たりでボードゲームが一区切りついた折に、男の子にポケモンで対戦しないかと持ち掛けた。
というのも、ボードゲーム中の雑談で、自分とその子がDSを持ち込んでいて、しかも同じくポケモンを持ってきていると分かっていたからだ。
男の子は二つ返事でOKしてくれたけど、唐突に
男の子「おしっこいってくる」
といってDSを放置して駆け出して行った。
いよいよ児童館の管理人を除けば独りぼっちになってしまったのでぼんやりしていたんだけど、唐突に、「対戦で出してくるポケモンを見てやろう」と思い立った。
先に出してくるポケモンが分かれば、対策が立てられるからね。
そして、男の子のDSを開けて中のポケモンを見てみたら、その子、手持ちのポケモンの名前が
「おじいちゃ おねいちゃ おねいちゃ おねいちゃ おねいちゃ おねいちゃ 」
ってなってたのよ。
しかも「おねいちゃ」って名前のポケモンは全部瀕死。
それ見て怖くなった自分は、自分のDSだけ回収して急いて家まで帰った。
「おねえちゃ」というポケモンだけが瀕死だったから、Aの姉が何か家で酷い目に合っているんじゃないかと思ったんだ。
もしくはAが何か心の闇を抱えているのかなとも思った。
怖かったけど、俺は気になってしまったんだ。
Aのことがどんどん気になってしまって、俺は児童館へ通うようになり、Aとの仲を深めていった。
Aはあまり友達がおらず、どこか寂しそうな感じだった。
よく野良犬や野良猫を可愛がっていたと思う。
もちろんポケモンでも遊んだけど、変な名前のポケモンが対戦に出てくることはなかく、普通の名前になっていた。
俺はAと仲良くなったことで、Aに対しての変な気持ちがなくなっていた。
Aと俺は普通に友達になってよく遊ぶようになった。
る日いつものようにAと遊んでいると、中学生くらいの女の子がAに声をかけてきた。
Aはその子を見るとすぐに
「お姉ちゃん!」
と言った。
そのとき俺はやっと例のポケモンのことを思い出した…
Aのお姉ちゃんがどんな人なのか、俺は少し緊張しながら観察していた。
すると、Aのお姉ちゃんは
「一緒に遊ぼう」
と話しかけてきた。
Aの姉は綺麗な顔立ちをしていて、活発そうな人だった。
Aが姉を慕っているのもすごく伝わってくる。
家で酷い目にあっているようには思えなかった。
それからAの姉もちょくちょく児童館に遊びに来るようになった。
俺はAの姉が好きになっていた。
初めて人を好きになった気がする。
家出もいつもAの姉の事を考えるようになって、一人だと勉強もゲームも手に付かなくなったのを覚えてる。
ある日Aの家に俺は招待された。
Aはゲームを沢山持っていると聞いていたから、ゲームで遊ぶのが楽しみだった。
もちろん、姉が家にいることを思うとドキドキが止まらなかった。
Aの家は赤い屋根の白い大きな一軒家で、庭も広かった。
裕福そうな感じが出ていた。
Aの母は明るくて美人で、顔がAにとてもよく似てたよ。
その日はAとゲームをして遊んで、それからもAの家で遊ぶことが多くなっていった。
でも、何度かAの家に行ったとき、俺は妙なことに気が付いたんだ。
Aの姉が、いつも家にいないんだ。
俺は姉に会うことも楽しみにしていたから、Aに聞いてみた。
「そういえばお姉ちゃんは?」
するとAは
「え、いないよ?」
と答えたんだ。
どこに行ってるの、とかもう少し聞いてみたかったんだけど、それ以上聞くと好意があるのがバレそうだったからやめた。
Aの母もこの話が聞こえるところにいたんだけど、特に反応はなかった。
そして、もうひとつ気になることがあったんだ。
Aの家に入る時、こっちをじっと見ているおじさんがいるんだよ。
最初は気にしてなかったんだけど、Aの家に行くと必ず俺のこと見てる。
おじさんは50代くらいで、中肉中背って感じ。
俺はだんだん怖くなってきて、AやAの母親に聞いてみた。
Aの母親によると、
「あのおじさんは、近所でも有名な変な人」
「話しかけられても絶対に無視した方が良い」
と言われたから、俺はそれに従うことにした。
それからもおじさんを見かけたけど、気付かないふりをしていた。
でも、それからしばらくしていつものようにAの家に向かっていると、Aの家までもう少しというところで、おじさんが俺に近づいてきたんだ。
おじさんは俺を待っていたようだった。
そしておじさんは、俺の腕を強くつかんで、小さい声で
「もうあの家には行くな」
と言ってきたんだ。
かなり強い力で引っ張られたけど、俺はそれをなんとか振り払って、急いでAの家に入った。
すぐにAにさっきのことを言おうと思ったけど、おじさんが言っていた「もうあの家には行くな」という言葉が引っかかって言えなかった。
そのとき、Aのポケモンのことも何故か思い出したんだ。
おじさんに突然話しかけられてびっくりしたけど、おじさんの言い方はどこか俺を思って言っているような感じがした。
そのせいもあって、余計Aたちには言えなかったんだ。
そして、毎回楽しみにしているのに、何度言っても姉の姿がない。
流石におかしいと思ったし、会えないことに俺は不満を持ち始めて、チャンスがあったらこの家の秘密を探ってやろうと思うようになったんだ。
俺がAとAの部屋で遊んでいるとき、Aはトイレに行ってくる!と言って部屋を出て行った。
初対面のときと同じような感じだった。
ドアは開けっ放しだったけど、俺はチャンスだと思った。
Aの机の棚にあった日記を手に取ってみた。
この日記があるのはずっと前から見かけて気になっていた。
Aがトイレから帰ってくる前に、俺は急いで中身を確認してみることにした。
日記の中は、思ったよりボロボロ。
絵も描いてあった。
多分Aが描いたその絵は、とても小学生が描いたとは思えないくらい上手かった。
でも、パッと見ただけでなんだか怖い感じの、ちょっと異常な感じの絵。
パラパラ見ていると、数年前に家族でディズニーランドに行ったことが書いてあるページがあった。
でも、なんか変だったんだ。
俺はその違和感はAの家族の違和感そのものだと気付いた。
その絵には、Aの母とA、そして二人の姉と思われる人物が描かれていた。
Aに父がいないというのは、前から聞いていたんだ。
だから俺はAの家族は母親とA、そしてAの姉の三人だと思ってた。
でも、そこにはもうひとり女の子が描かれていたんだ。
一番大きい女の子は笑っていなくて、他の三人はなんか不気味に笑っている絵だった。
どのページを見ても、その女の子だけは笑ってなかった。
そろそろAが戻ってくる頃だなと思って日記を戻そうとしたとき、背後に視線を感じた。
おそるおそる振り向いてみると、そこにはAの母親が立っていた。
マズイ!と思って俺が固まっていると、Aの母は
「中、見ていいって言われたの?」
と聞いてきた。
俺は
「いえ、ちょっと手に取ってみただけですみません!」
と言い、すぐに日記を戻した。
そんな中Aが帰ってきて、俺心臓バクバク。
Aが母親に
「お母さん、どうしたの?」
と聞くと、Aの母親は
「いや、なんでもないよ」
と言って去っていった。
Aは怪訝そうにしていたけど、そのあとは普通に遊んだ。
俺は日記を見たことがAにバレるんじゃないか、母親がAに言うんじゃないかって気が気じゃなかったけど、そのままなんとか遊び続けた。
いつも午後5時に帰っていたんだけど、その時間になったから俺は母親とも顔を合わさないように逃げるように帰った。
帰り道は、やっぱり日記のことで頭がいっぱいだった。
俺はひとつわかったことがあった。
それは、もう自分はAの家にも、Aにも近づかないほうがいいということだ。
俺がそう思ったとき、待ち構えていたようにおじさんが現れた。
おじさんは昼間俺を怖がらせたことを反省したように、
「怖がらないで」
と言って
「君に話しておきたいことがある」
と言ってきた。
俺は昼間と違って、逃げようとは思わなかった。
昼間おじさんが俺に言っていた
「もうあの家には行くな」
ということが、俺を思って言ったことだと実感できたからだ。
おじさんは
「怪しいものじゃなから安心してほしい。どこか人のいる場所で話そう」
と言って俺をファミレスの駐車場に連れて行った。
そしておじさんはもう一度
「もうあの家には絶対行かない方が良い」
と言ったんだ。
それからおじさんは、A一家について知っていることを話してくれた。
おじさんが言うには、A一家はAの他に2人の姉がいたらしい。
1人は体が弱くて軽い知的障害を持っていて、もう一人は活発な女の子。
おじさんは近所に住んでいて、Aの家から度々二人の姉の泣き叫ぶような声が聞こえていたそうだ。
おじさんはその声のことを、知的障害のある姉が家族から●待されていて、それをもう一人の姉がかばっている感じだったと言っていた。
おじさんは心配になって何度か様子を見に家を訪ねたんだけど、Aの母親からは何事もなかったかのように対応されたらしい。
そしてAの家は地元の有力者だから、誰もあの家の問題を解決しようとしなかったらしいんだ。
そうこうしているうちに、K子はやせ細って暗い顔になっていった。
今から4年前に亡くなり、おじさんは原因を●待のせいだと考えているらしい。
おじさんはさらに続けた。
K子が亡くなった次の年、もう一人の姉も亡くなったそうだ。
俺は「え!」と思った。
二人いた姉がどちらも亡くなっているなら、あの人は誰なんだ?
Aが慕うお姉さんが誰なのか気になって、俺はおじさんに聞いた。
もう一人お姉ちゃんいるでしょ?
俺、最近会った事あるんだけど!
そう言うとおじさんは、それは無い。
あの家は三人姉弟のはずだ。
と言った。
そしてAにも絶対に会わないほうがいいと続けた。
Aは変だという。
どういうことなのか聞いてみると、K子ともう一人の姉が亡くなったあたりから、あの近所で野良犬や猫が殺される事件が起きていたらしい。
おじさんが言うには、その犯人はAだという。
現場を押さえることはできなかったが、Aが可愛がっている野良犬や猫が複数被害に遭っているそうだ。
そしてAは悲しそうなそぶりを見せたことがないらしい。
おじさんは、Aが「親の模倣」で犬や猫を殺しているのか、それともAも姉の死に関わっていて殺しの快感を覚えてしまったのかもしれないと言う。
俺は、証拠がないからどこまで本当かわからなかった。
でも、ポケモンや日記のことが頭に浮かんで、おじさんの話に妙な説得力を感じていた。
俺は最後にもう一度、Aの姉を名乗る人がいるけど、あれは誰かと聞いた。
おじさんは、わからないがロクな話じゃないからもう近づかないほうがいいと言い、最後にもう一度、俺の目をしっかりと見て
「もうあの家にはいかないほうがいい」
と言って、帰っていった。
おれはこれ以降、Aの家に行くことはなかった。
しかし、このあと俺はAと再会するんだ。
Aとの関わりを断ちたくて、Aの家に行かないのは勿論、俺は児童館にも行かなくなっていた。
でも俺はAの謎の姉のことはずっと気になってしまっていて、ある日友人に児童館に誘われて、つい行ってしまった。
俺はなんとかAには会わずに、姉と話したいと思った。
まだ好きだとう気持ちもあったし、この件を友人には絶対に知られたくなかったんだ。
そして児童館に着くと、Aの姿があった。
Aに会いたくなかったから、俺は友達に
「ちょっと用事!」
「すぐ戻るから待ってて!」
家に帰るふりをしたんだ。
児童館の近くで、姉を待ち伏せすることにしたんだよ。
Aの姉が来るのはいつも夕方の4時ごろ。
いつ来てもおかしくない時間帯になって、俺は久々に話せるかもしれないという思いで胸がいっぱいだった。
すると、姉がやってきた。
久しぶりに見たけど、相変わらず綺麗だったよ。
俺は姉に見とれながらも、少しでも児童館から離れたところで話した方がいいと思って、児童館へ向かう姉に話しかけた。
お久しぶりです。
あの、聞きたいことがあるんですけど、本当にAのお姉ちゃんなんですか?
すると、
「え、違うよ?」
とあっさり言われてしまった。
こうなるともう、この人は何なのか、Aのことをどこまで知っているのか、俺は今まで見聞きしたことも全て彼女に伝えて、気になる事を全部聞いた。
まず、この人物の名前はK子。
K子は俺の質問に対して、Aがお姉ちゃんを亡くして寂しいと言っていた。
そして自分のことを本当のお姉ちゃんのように振る舞っていたので、それに付き合ってあげていた。
Aはいつも寂しそうで、放っておけなかった。
姉が殺されたとか、そういう話は信じたくない。
彼女はこのようなことを話してくれた。
俺はこの人のことを本当にいい人なんだなと思ったし、酷い目に遭ってほしくないとも思った。
でも、俺にできることは何もなかったんだ。
Aについての話は終わったんだけど、もう少しK子と話していたくて、俺はついつい関係ないことで話を引き延ばしていた。
すると、自転車に乗った友人たちが来た。
そしてそこには、Aもいたんだ。
友人たちとAは、遊んでいるうちに仲良くなったらしい。
俺は急に現れたAにビビったけど、バレないように適当にやり過ごして速攻で帰った。
とりあえず、何も起こらなくて良かったと安心した。
姉の謎も解けたし、もう絶対にAには近づかない。
そう決めた。
これで関わらなくて済む。
そう思った。
Aと会ってしまった日からしばらくして、俺が家でゲームしていると玄関のチャイムが鳴った。
俺の母親が二階に来て、
「友達来たよ!」
と呼ばれたので、誰が来たのか母に聞くと、
「A君って言ってたけど」
と答えた。
俺は心拍数が一気に上がった。
俺の家は、友人たちから聞き出したんだろう。
母親に、俺はいないことにしてくれと居留守を使うことにした。
それからもAは頻繁に俺の家に来たんだけど、そのたび俺は居留守を使ってやり過ごした。
しばらく経つと諦めたのか、Aも来なくなった。
安心していると、ある日両親が出かけた日にインターホンが鳴った。
時間ははっきり覚えている。
午後6時頃だ。
モニターで誰が来たのか確認してみると、そこにはAとAの母親、そしてK子がいた。
どういうことかわからなくて、俺はパニックになった。
すごく怖かった。
絶対に出てはいけない。
俺はそれだけはわかって、息をひそめていた。
でも、俺がいるのがわかっているのか、何度もインターホンが鳴る。
もう怖すぎて泣きそうだった。
どうにかこらえて、10分ほどすると、諦めたのかA達はいなくなった。
インターホンが鳴らなくなって、さらに10分くらい待ってから扉を開けて確認してみると、1枚の紙切れがあることに気付いた。
それは、あの日記の1ページを切り離したものだった。
それを見て俺はこれまで感じたことのない恐怖を覚えたよ。
そこに書いてあったのは
「もう少しだったのに」
という言葉だったんだ。
それからAたちは嘘のように俺の前に姿を現すことはなくなった。
俺がA達に狙われていたのは間違いないだろう。
でも、俺を捕まえてどうするつもりだったのかがわからない。
そして一番の疑問はK子だ。
本当にAの姉だったのか、そうではないのかもわからない。
でも、俺はおじさんやK子は、俺に嘘を言っていないと思うんだ。
カンだけど。
K子がA達と一緒にきたのは、A達に何か洗脳されてしまったのか、俺がK子に好意があることをAが気付いていて、K子を使って
俺を家から出させようとしたのか。
わからないことだらけだけど、それから俺に何か被害はなかった。
Aと会う事も一切なくなった。
K子のことだけは気になって、少しだけ児童館に様子を見に行ったことがある。
でも、会えなかった。
K子が無事でいることを今でも願っているよ。
何度思い出しても怖いし、謎が多いけど、これが俺の体験した話。
長くなってごめん。
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