前に働いていた料理屋での話。
板場だけで30人近くいる老舗の大店だったんだけど、俺が働き始めて5年くらいして、急に新しい板長に変わったんだが、これがまた、
「なんでこいつが板長?」
と誰もが疑問に思うような馬鹿だった。
恐らくは漫画の影響なんだろうけど、
「板前が死ぬのは板場だ」
が口癖で、どんなに体調が悪くても出勤させてた。
インフルエンザで39℃の熱があるというのに出勤させ、板場でインフルエンザを流行らせたような大馬鹿。
後で知ったがオーナーが妾に生ませた子で、ゆくゆくはのれん分けさせようと思っていたそうで、箔を付けさせるのが目的で板長にさせたらしい(ちなみにそのオーナーも四代目のボンボン)。
ある日、焼方で人望の厚い先輩Aさんに、結婚10年目にしてやっと授かった大事なお子さんが事故に遭ったという連絡が入った。
板場の全員が
「すぐに病院に行ってください」
という中、その馬鹿が口を開いた。
「おまえの子供は死んだんか?まだ生きとるんなら、親父のおまえが戦場を離れてどうするんや?たとえ子供が死んだとしてもおまえが板前なら・・・」
ここでAさんの右フックがクリーンヒット。
漫画みたいに鍋と一緒にガラガラと音を立てて馬鹿が飛んでいった。
そのまま病院へ向かったAさん。
「・・・くっ」
と鼻血を垂らした馬鹿に一番の古株の立板Bさんが
「大事な板場に鼻血垂らすアホがおるかぁ!」
と一喝。
馬鹿は涙目で帳場へと消えて行った。
後日、事の成り行きを知った三代目が直々にAさんにお詫びし、馬鹿はクビ。
Bさんが新しい板長になりました。
四代目もあれからずっと大人しくなった。
Aさんのお子さんは無事でした。
そこまでになるまでに追い出せなかったのか?インフルのくだりはパワハラ通り越してる。