俺の家は地方の大きな大学の近くにあって、近所にアパートが多い。
家の右横と斜め前がアパートだ。
2年ほど前の話なんだけど、俺が夕方5時頃、高校の帰り道にその家の斜め前のアパートの前を通りかかったときに、2階の一番俺の家に近い部屋の窓とカーテンが開き、電気がついていているのに気づいた。
そこは空き部屋だと思っていたので、よく見るとベランダごしに中の様子がわかる。
といっても部屋の上部なんだけど、なんだか首をつってる人がいるように見える。
まさかと思って何度も角度を変えて見直したんだけど、ロープがはっきり見えるし、その下に人の頭のようなものがある。
顔の表情はわからないけど、全体として首つりとしか思えない。
それで家に戻って、早く帰っていた親父に相談して一緒に見にいってもらったら、やっぱり首つりじゃないか、ということで警察に連絡した。
その後に親父がアパートの大家にも電話をかけた。
家の前で待っていたらパトカーと救急車が来て、警官が二人俺らのほうに出てきてその首つりを確認した。
「たしかにそう見えるね」
と警官の一人が言って、救急隊員らと一同でアパートに入っていった。
そのすぐ後にミニバンが来て、大家さんらしい人がアパートに入っていった。
そして警官が部屋に入ったらしく、カーテンが引かれ窓が閉められて中の様子は見えなくなった。
俺と親父はアパートの前で待っていたら、15分くらい後、恐縮した様子の大家さんと警官、救急隊員がそのまま出てきた。
大家さんは
「すみません、すみません」
という感じで警官の一人に謝っている。
救急車は帰って行った。
さっきの警官が俺らを見つけて近づいてきて、
「ご苦労さんでした、心配をかけましたね。いや自殺ではありませんでした」
と言う。
親父が
「そうですか、そう見えたんですがすみませんでしたね」
と言うと、
「いや、それは無理もないです。 実際に精巧なマネキンがつるしてありましたから。しかも全身に御札を貼りつけた。 あそこは空部屋で、大家がつるしたようです」
俺が
「どうしてそんなことを」
と聞くと、
警官二人は顔を見合わせていたが、年配の一人が、
「いや、このままでは不思議でしょうね。大家が言うには、今日は本物の首つり幽霊が出る日なので、それが出る前にニセモノを吊しておいた、ということなんです」
俺と親父は
「??」
となった。
警官も困惑した顔でこう言った。
「なんでも、今日は昔あの部屋で自殺した人の命日で、毎年幽霊が出たと言うんです。それで、マネキンを前もってつるすようにしたら出なくなったってことだそうです。・・・どう思います」
それから2年後に大家さんはアパートをたたんで、他県にいる娘さんのとこに行って、アパートは今はコンビニになってる。
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