幽霊を見た事があると言う知人の話。
彼が電車に乗っていた時の事。
途中の駅から若い女性が乗り込んで来た。
凄い美人で、ミニスカートから綺麗な足が伸びている。
女性は開いている席を探している様な、知人を探している様な様子で車両を歩いていたらしい。
彼が鼻の下を伸ばしながら女性を見ていると、隣の席に座る老女がいきなり話しかけて来た。
「あんたにも見えるんだね…」
「?」
彼が、何を言うんだこの婆さん、と言う顔で見返すと、
「周りを見てごらん…あんた以外にアレを見てる者はいるかい?」
彼はハッとしてしまった。
老女の言う通りである。
あれだけの美女があんな短いスカートをはいているのに、誰も女性を見ていないのだ。
頭の悪そうな男子高校生さえも一瞥もしない。
老女は独り言の様に話を続けた。
「あたしはプロだから見えるんだけどね、でもあんた見たいな素人にも見えるとは珍しいね。アレはかなりタチの悪いモノだよ。この近くで電車に飛び込んで、成仏できずに彷徨っているんだろうけど…」
「飛び込みですか?でも…」
彼は思わず聞いてしまったと言う。
老婆は女性が電車に飛び込み自殺をしたと言うが、女性は生きているかのように綺麗だったからだそうだ。
「あんた、映画の見すぎだよ。アンなモノでも昔は女だったんだよ。女ってのはね、死んでも尚、綺麗でいたいものなんだよ。あたしがこれまで手がけた女モノは皆、生きてた時、一番綺麗な姿で出て来たよ。そんな事よりホラホラ、アレが来るよ。あんた絶対にアレと目を合わせちゃ駄目だよ」
女性は彼と老女に気付いたのか、歩調を速めやってくると、彼の前に立ちはだかった。
彼は本当に生きた心地がしなかったそうだ。
目をギュッと瞑り、ジッと下を向いたままであったと言う。
電車が次の駅に着いた時、やっと隣の老婆が声を掛けくれたらしい。
「もういいよ。ほら、アレは獲物を見つけて出て行くところだよ」
彼がゆっくりと目を開けて顔を上げると、女性は二十歳そこらの、見た目の良い男と電車を降りるところだった。
「女の性なんだろうね…取り憑く男も、カッコ良いいのがいいのかね…」
(彼は、ハゲ、デブ、オヤジの、スリーカードを持っている)
と言うと、老女はニヤリと笑い言葉を続けた。
「今日はサービスしといてあげるよ。依頼なら一本は貰っているところだけどね」
彼は、それ以前もそれ以後も幽霊を見ていない。
なぜ、あの時だけ彼にアレが見えたのか?
一本とは十万円なのか?百万円なのか?
未だ彼には分からないと言う。
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