うちの近所に、とてもでかい2m近くある知的障害者(以下、池沼)の男がいたんです。
そいつは、いつも近所を走り回ってました。
走るときは決まって、「ヴぉわああああ~」と言いながら拍手をしながら走ります。
3~5mくらい走ると立ち止まり、しばらく周りをキョロキョロ見て、別方向に向かってまた同じように走るシステム。
目的ハ不明。
そいつは本当に邪魔!
とにかく、人間の存在そのものが見えてないのか、周りには目もくれず走り回るのです。
小道からも突然飛び出して来るので、それを知ってる近所の車を運転する人ら、うちの親もそうでしたが、車2台が優に通れる大きい道路なのに、そいつが出没する道だけは徐行しながら走ってました。
車の速度で、近所の人かヨソモノかわかるくらいでした。
こんなこともありました。
夜中の2時ごろでしたか、私がコンビニで買い物した帰り、30m先の暗闇の中に見覚えのある人影が!
そうなのです。
こんな時間なのに、そいつが走り回ってたのです。
昼間とは違い不気味な気配を感じました。
襲い掛かられたらどうしよう?
少し遠回りになってしまいますが、別の道から帰ることにしました。
普段通ることもない道で、表通りとは違い狭い道幅、街灯も少なく、塀の高い家が並びます。
草や木で覆われた空き地なども多々あり、表通りとは一転、寂しい道で邪悪なものを感じましたが、無事家に帰り着くことが出来ました。
そんなある日、私が自動車教習所に通っていた頃のことです。
近所の公園の門の前で教習所のバスを待っていると、突如うしろから
「ヴぉわああああ~」
の声。
とっさに振り向くと、公園の中からそいつが猛烈な勢いで私に向かって突進してきます!
つい
「ひぃやぁ!」
なんて情けない悲鳴を上げてしまうと、そいつは私の前で立ち止まりました。
そばに立つと、でかいからそれだけで威圧感がある。
手もでかいから、ぶん殴られたら吹っ飛ばされそう。
「なん・・・なの・・・?」
ちょっと情けないか細い声を出し、そいつを見上げてたのですが、そいつは私には目もくれずあたりをキョロキョロして、またいつものように走り出した。
そいつとちょっと距離を置いて落ち着いたのか、私の中で急に怒りのゲージが増してきて、
「バカじゃなかろーか!?」
と、そいつに向かって叫んだの。
するとそいつ、私のほうを振り返り、数秒のあいだ私の顔をジーっと無表情で見つめていましたが、私が言ったことを気にしてないのか理解できてないのか、走り去って行きました。
人には危害は加えないんだなと、安心していた矢先のことでした。
私は見てなかったのですが、ある日、そいつが近所の小学生の手を引っ張ってたんですって。
それを見ていたカアサンや近所のおばさん衆、小学生の手からそいつの手を振りほどき、叱ろうとすると、今度は、そのおばさん衆のうちのひとりの手を引っ張りだしたんです。
あわててカアサンがそいつの家に行き、そいつの母親を呼んだんですが、誰もいる気配がありません。
結局、あとからかけつけて来た近所のおじさん衆が引き離して、その場は収まったんですが、夜になって、その話を聞いた小学生の父親が怒って、そいつの家に怒鳴り込みに行ったんです。
戸を開け名前を呼んでも、誰も出てきません。
それどころか、家の中は真っ暗で人の気配がしないんです。
それでも、ひとこと文句を言ってやらないと気が済まない小学生の父親は、家の中にあがり込み、廊下の電気を付け、ひと部屋ひと部屋探していくと、台所で暗闇の中に立っていたそいつを見つけました。
小学生の父親が文句を言おうとしたそのとき、フトそいつの足元を見ると、そいつの母親が倒れており、すでに死んでいました。
原因は心臓発作だったそうです。
彼の家は母ひとり子ひとりだったので、彼は東京の親戚の家に引き取られていきました。
私がその話を聞いたのは、彼が引き取られていったあとのことでした。
彼があの日、小学生さんやおばさんの手を引っ張ったこと。
それは彼なりに、母親が倒れたことを誰かに知らせたかったからではないでしょうか。
多分、私だけでなく、ミンナそう思っているはずだと信じています。
テレビで東京の風景、たとえば浅草、お台場、渋谷、汐留、丸の内などが映るたびに、その東京の空の下、今日も彼が元気に走り回っている姿が目に浮かびます。
オオカミ少年の悲劇。