俺の友人に一人だけ、霊感があると言う奴がいる。
仮にAとするが、そいつは
「どうせ信じないだろ」
っていって、俺以外の奴には霊感うんぬんの話は一切しなかった。
付き合いは長いものの、俺が知ったのは一年ほど前の事で、893絡みの金銭トラブルに巻き込まれた時の事を、ふとこいつならいいか…と打ち明けた時に、
「皆色々抱え込んでるんだなって」
ボソっと漏らした程度で、いくら俺が
「信じるから!」
といっても、
「知らん人間が語ったらあかんで…」
と、寒気を感じるような押し殺した声で呟くだけだった。
しばらくは俺たちのタブーとして一切触れずに過ごしてたんだが、ある日の夜、同級生の女(B子)からカラオケのお誘いを受けて、むこうはバイト先の友達(C子)も連れてくるってんで、俺はAを誘った。
4人で二時間ほどカラオケした帰りの車の中で、C子が私には小さい頃から霊感あって云々…の話を突然し出したもんだから、俺は焦ってAを見たが、助手席で
「へー」
とか
「そっかぁ」
って相づち打つ程度で、目立ったアクションは無かった。
女の子を送った帰り、Aが
「ドンキホーテに行きたい」
と言い出したので、二人で向かった。
普段Aはオシャレやファッションとは無縁の人間なんだが、
「帽子が欲しい」
と言い出したので、俺は
『おっ、色気付いたか!もしやさっきの女のどっちかを気に入って!?』
と思い、あれやこれやと提案したが、
「お前のセンスで決めてくれ」
と言うので、俺のオゴリだとキャップを買ってやった。
Aは買ったそばからその帽子を目深にかぶり、終始無言…。
帰りの車の中で、俺は帽子も含めて気になって仕方なかったので、
「なぁさっきのC子ちゃんて…」
というと、
「ねぇよ」
と即座に食い気味に返された。
さらにまた押し殺したような声で、
「気持ち悪りぃ…クズマ○コが」
と吐き捨てたので、
「なんか嫌な事でも言われたんか!?」
と俺は焦って聞くが、
Aは
「……あんな汚いもん久々に見たわ。お前に帽子まで買ってもらう始末になるし」
と、意味不な事ばかり喋り続けた。
とりあえず普通じゃない気配に、俺はもうこの話題には触れず、Aを送ってその日は帰った。
しばらくお互い忙しかったのもあって、Aとは会ってなかったんだが、俺が寝てる時に携帯が鳴ったので寝ぼけて電話に出ると、いつぞやの893だった。
『久し振りやのぅ、元気しとるんけ兄さん?なん…べん!も電話したんやけどの』
「………、お宅らとは念書まで書いて縁切ったはずやけど…」
『え!?何!?もっとハッキリ喋ってくれ!!あのなぁC子っちゅう子知っとるやろぅ!?』
この時点で、テンパリつつトラウマがっつりフラッシュバックしつつお目めバッチリな俺は、色々考えながら
「知らん。人違いちゃうんかいな、お宅らとは関わりたくない…」
と何とかしらばっくれるが、893はほとんど俺の話しなんか聞いて無い。
『わしらかてお前みたいなもんと関わりたくないがな!ところがやな、まぁ聞きいなぁ。C子っちゅうのを追っかけとったらな、うちの姪っ子の友達や言う事なんや、B子のな。お前もようよう知っとるやろ!?B子はわしの姪っ子に当たるんや。ほんで蓋開けて見たら、わしの姪っ子のお友達がお前やったいうわけや!?』
……!!俺がトラぶった893の実の姪っこがB子だという事実に俺驚愕。
「知らんは…そんな事。初めて聞いた。とにかくC子なんて奴知らんよ、もう切るで…」
『何!?電話遠いのぉ、お前今どこおんねん!?まぁええ、なんぞいい絵描けんかのぅ?』
すなわち、C子捕獲作戦に協力しろとこの893は言いたいのだろうが、俺はとにかく関わりたくなかったので、
「だからC子なんて知らんゆうてますやん。お宅の姪っ子さんに聞いてくれ」
と言って電話を切ろうとしたが、
『……まさかお前、なんかわしの事いろて……またしょうもない絵描いてのと違うやろなぁ?』
鳴り響くドスの聞いた声に半泣き&勘弁してくれ状態。
「C子なんて女ほんまに知らんし……B子ともあれから会ってない」
『なぁ○○君や、あんたさえうんと言ってくれたらな、わしも安心なんじゃ』
上から下からこの上無いしつこさに、俺ついに根負け…
「B子に聞いて、なんぞ言って見る…どうせお宅からB子に強く言えへん理由が……」
『そうか!?ハイハイわかったよ!!』
プチッ…ツーツー……
相変わらずの理不尽さにトホホな俺。
すぐにB子に電話して事情を説明したら号泣。
B子いわく、自分が893の姪っ子である事はずっとひた隠しにしていたし、まさか俺と接点があった事など知らなかったとの事。
急に家に電話が掛かって来て、
『C子と俺ともう一人でカラオケに行っただろう?』
と893に言われ、
『C子を今度連れて来い』。
それから俺の名前を出して、
『あいつとはどういう関係だ?関わるな』
と言われた事を泣きながら話した。
俺にその時点で連絡を入れなかったのは、過去に893関係で家族一同嫌な思いをして来たので、何もかも信じられなくなって、どうしたらいいかわからなくなったとの事。
とにかく俺は、
「C子を連れて行く必要は無い。親しくないを通せ」
と言ったが、C子はあまりいい噂聞かないし、俺に迷惑掛けるかもしれないし、
『自分で何とかする』
と言って電話は切れた。
数日後、893からガンガンに電話が掛かって来た。
初めは無視していたが、いい加減怖くなって電話に出た。
「ハイ…」
『相変わらずお前はなん…べん!鳴らしても電話に出んの!!こらカス!!』
「なんでんねん…」
『あぁ?お前も黒いの!えぇ!?B子がC子連れて来よったわ!! お前に連れて行け言われたっちゅうてな!!うまい事絵描いてくれたやんけ!!! 相変わらずよう世間知っとるのぉ、クソガキが』
「……!?(言ってねぇ!!)俺何も言うてませんで、ただB子にこんな事が」
『ハイハイ、ようやってくれた。またなんぞあったらよろしく』
ツーツーッ…
どうやらB子は、C子を893の元へ連れていったらしい…
C子に恨まれるのが嫌で、俺に指示されたと嘘をついたのか、俺を守る為にそういう事にしたのかは定かでは無いが、それ以来B子とは音信不通で、連絡出来なくなった。
この一連の流れを、久し振りに会ったAに話した。
ずっと黙って聞いてたAが話しを聞き終えてから、
「あのC子って子、この前来たよ俺んとこ」
と呟いたので、俺は
「?幽霊…?死んでんの?」
とおそるおそる聞いてみた。
「グチャグチャな顔して、ベーっと舌出してたよ。詳しくはわからんけど、あの子多分人殺してるよ。カラオケの時そう思った」
「……B子はどうなってんの?」
「知らんよ…でもB子ちゃんは、C子ちゃんを恨んでたと思うよ。なんかC子ちゃんに対して、ドス黒いもんまきついてた」
「B子は…C子になんかされて、…それで893に引き渡したんかな?俺のせいにして」
「知らんけど…あのB子ってのも、相当黒いよ。お前にもまきついてた」
「まきつくって何?」
「本体とは違う方…やらしい顔してな、ずっとお前の下半身に絡みながらお前の方見てたよ…自分が歌ってる時はずっとな……それ以外は、C子ってのに凄い形相でな」
今一要領を得ない受け答えばかりだったが、Aとの関係にもヒビが入りそうで俺は話題を変えた。
「まぁいいや、帽子気にいったか?」
「帽子被ったら、見なくていいもん見ずに済むかなって思ったんだけどさ…… ほら、B子ちゃんいるじゃんそこ」
………!!
「嘘だよ、まぁあの子も死んでる気ぃするけどな」
長文スマソ。
色んな意味でシャレにならんかった。
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