近所の中華屋でラーメンを食ったんだが、金を払おうとしたら、店主がいらないと言うんだ。
「今日でお店終わり。あなたが最後のお客さん。ひいきにしてくれてありがとう。これ、おみやげ」
と、折詰めを二つくれた。
俺は何と言っていいかわかんなかったけど、
「とても残念です。おみやげ、ありがたく頂戴します。お疲れさまでした」
と挨拶して店を出たんだ。
折詰めの中を見たら、餃子やら春巻やら唐揚げやらが、みっしりと詰まってる。
ちょっと一人じゃ食べきれないボリューム。
面白い体験だな。
得しちゃったな。
と、楽しくなってさ。
帰り道に友人に電話して、経緯を話してから、
「今、俺んとこに来たら、中華オードブルがたらふく食えるぜ」
と誘ったんだよ。
すると、友人は変な事を言うんだ。
『その折詰めの中身、食ったのか?』
「食ってないよ」
『いいか、絶対食うな。それから、絶対アパートに戻るな。 そうだな、駅前のコンビニに行け。車で迎えに行ってやるから』
「どういう事が全然わかんないんだけど」
『説明は後だ。人のいるところが安全だ。コンビニに着いたら電話くれ』
とにかく俺はコンビニに向かったよ。
で、友人に電話した。
「着いたよ」
『こっちももうすぐ着く。誰かに後を付けられたりしてないか』
「えーと、お前大丈夫か?」
『それはこっちの台詞だな』
それから、友人と連絡が取れなくなった。
携帯がつながらない。
小一時間コンビニで待ってたけど、友人は現れない。
友人が言った『絶対アパートに戻るな』というのが、何故か頭に残ってたから、ネットカフェで朝まで過ごし、始発で実家に帰った。
いまも実家でゴロゴロしてる。
他の友人に尋ねても、そいつとは連絡が取れないそうだ。
そろそろ学校も始まるし、友人の消息も気になる。
折詰めはコンビニのゴミ箱に捨てた。
九月も中頃を過ぎて、さすがに実家に居づらくなったので、アパートに戻ってみた。
晩飯にコンビニ弁当を食っていると、お隣の人が来たんだ。
ちょっといいかな、って感じて。
「もう、大丈夫なのか」
って聞かれたんで、すごくびっくりした。
え?なんで知ってんの?
でも、お隣の人が続けた話にもっとびっくりした。
「夜中にガラの悪い男が、あんたの部屋のドアやら壁やらをガンガン蹴ってたんだよ。 借金かなんかでヤクザとトラブったのかと思った。しばらくあんたの顔も見なかったし。でも、あんたも戻ってきたんだしね。詮索はしないよ」
帰ろうとするお隣の人を引き止めて聞いた。
「それはいつ頃のことですか」
「八月の終わり頃と、先週くらいかな。先週のはしつこく蹴ってたから、『警察呼ぶぞ』っていってやったら、すぐ引き上げたみたいだな。 ……もしかして、知らなかった?」
俺が半笑いな感じで頷いたら、お隣の人は無言で出ていった。
俺も即、部屋をでた。
それから、カプセルホテルとかを転々としてる。
実家にまた戻るのいいんだろうけど、よくわからない災いをもたらしそうで、正直怖い。
とにかく、消息不明の友人に話を聞くのが解決の近道と、学校の知人と連絡を取り合ってるが、いまだ音信不通。
どうしよう。
すいません。以前、中華屋で折り詰めを貰ったものです。
消息不明の知人が、自殺していたことが判明しました。
俺は学校を辞めました。
アパートも引き払いました。
多分、これで終わりになるでしょう。
本当の最後として。
俺が消息不明の友人と何とか連絡を取ろうとしていた時、頼りにしていた奴がいた。
そいつは友人と古くからの付き合いで、そいつならば友人の居場所の見当もつくんじゃないか、俺はそう思ってた。
アパートから二度目の逃亡で、カプセルホテルに滞在中、そいつから携帯に電話があった。
『お前に嘘をついていたことを、まずは謝る。
実は俺は、お前から友人のことを問われた時には、友人が自殺したことを知っていた。
車庫で首を吊っていたそうだ。
通夜の晩、俺は親御さんから呼ばれて、別室で話をした。
親御さんは、『自殺する理由がどうしてもわからない』とおっしゃる。
俺も『まったく思い当たることがない』と答えた。
すると親御さんは、携帯電話を俺に見せた。友人の携帯電話だ。
握りしめたまま息絶えていたそうだ。
遺書らしきものなかった。
もしかすると、この携帯になにかメッセージがあるのでないか。
そう親御さんは考えて、俺に確認してくれとおっしゃった。
俺はちょっと奇妙な感じがしたが、親御さんに機能と操作を説明しつつ、なかを見た。
録音もなし、メモもなし。
次に発信履歴を見た。
そこには、●●●という名前がずらっと並んでいた。全部不在だった。
友人は多分、自殺する直前まで、●●●に電話を掛け続けていたんだろう。
履歴のページがその名前で埋め尽くすまで。
さらに、着信履歴を見た。
お前の名前があった。
俺は正直に、親御さんに説明した。
お前から友人に電話があり、しばらく会話した後、友人は●●●に電話を何度も掛けたがつながらなかった。
そして、友人は間違いを犯した。その後、お前が友人に何度か電話を掛けた。とね。
親御さんに、お前のことと、●●●について聞かれた。
俺は知っていることを全部教えた。●●●は何のことかわからなかったから、『わからない』と答えた…』
コンビニで待ちぼうけをくったあの晩に、すでに友人は自殺していたんだ。
●●●といえば、あの中華屋の店の名前。
そいつの話はまだ続いたが、もうどうでもよくなった。
ただ、この街にいるのは良くない。
災いがやってくる。
だから、逃げることにしたんだ。
さようなら
ポポブラジルです。