十数年前、自分がまだ高校生の頃、付き合った彼女話。
高1の夏休み前に、父親の会社が倒産した。
家計が厳しくなり、学校に許可を貰い、近所の仕出し弁当を作ってる工場でバイトすることに。
昼は学校、そのまま夕方~夜は工場でバイト。
そんな生活が続いた。
父親は仕事から解放された喜びからか、就活するどころか毎日遊んでいた。
必死に働く自分とは裏腹に、毎日遊んでる父親を見て苛立ったが、落ち込むよりは良いということで、そのままにしておいた。
そんな生活が秋くらいまで続いて、失業保険も終わり、焦らないといけないはずの時期になっても、父親は就活もしないで毎日遊びに行っていた。
ある日、そんな父を見てか、母親が貯金を持って蒸発してしまった。
母親もパートで家計を手伝っていたので、蒸発した悲しみよりも先に生活が心配になった。
それから母親が戻らず2週間位たった頃、
「ちょっと母さんを探しに行ってくる」
と、父親も蒸発してしまった。
結局二人とも帰ってくる事は無かった。
いきなり一人ぼっちになり、お金も手持ちの分しかなかったのでさらに生活が厳しくなり、高校も休学し、バイトに専念することになった。
その時は、高校も休学してバイトをフルタイムで出来るし、月15万位行くし、持ち家だから余裕だろと、生活に関しては楽観的に考えていた。
実際の生活はギリギリで、風呂も服も洗わず、工場の弁当を貰って食べる、という生活が続いたりもした。
両親を思い出して泣いたりもした。
友達も居なく、頼る当ても無く、精神的にも肉体的も辛かったが、たまに父方の祖父と祖母が来て世話をしてくれた。
「一緒に暮さないか」
と誘われた事があったが、
「もうちょっと待って。両親が帰って来なかったらお願いします」
とか言った。
なんでそんな事言ったのかは忘れたが、そう言いながら後悔してたの覚えてる。
両親の事は既に諦めていたし。
まぁ、その時は不幸のどん底で、人間不信にでもなってたんだと思う。
バレンタインの日、バイトから上がろうとしていたら、職場の年下の女の子からチョコレートを渡され告白された。
もちろん自分はOK。
付き合う事になった。
ずっと誰とも話さなかった毎日の反動か、彼女とは喧嘩も無く本当に幸せな毎日を送れた。
彼女は独特な世界観を持ってて、考え方とかも他の人と変わってて、会話が噛み合わなかったりしたけど、それが逆に喧嘩をしないで済んだ理由かもしれない。
春頃に彼女が「家に居させて」と、深夜に家にやって来た。
話しを聞いたところ、父親の借金が原因で家を追い出され、そんな父が嫌になり逃げてきたらしい。
俺の家はボロい家だったが、彼女と一つ屋根の下、二人暮らし。
夢の様な願っても無いチャンスだったのでOKし、同棲生活が始まった。
次の日の朝、俺がボーっとしてたら、彼女が変な事を言い出した。
「私、人の心が読めるんだ。今さ、頭の中で○○の曲歌ってたでしょ?」
俺はあっけに取られながらも、寝ぼけて鼻歌でも歌ってたんだろうな…とか考えてた。
だが、俺の考えとは裏腹に、彼女は何かある度に俺の頭の中を覗いて来た。
俺は恐怖もあったが、また一人になるのも嫌だし、同棲生活は楽しいし、続けてた。
彼女が家に来てから、おかしな事が起こり始めた。
家の隣の畑から深夜お祭り音がしたり、夜寝ようとすると隣の部屋から変な音するし。
そんな狂った生活が続き、季節は夏へ。彼女はもっと変な事を言い出した。
「前に人の心が読めるって言ったけど、実はあれは嘘で、○○(俺)の近くに居ると、○○の心が聞こえるんだよ。他の人も『聞こえる』って言ってるし。でも、私は○○の事を好きなのは変わらないし、本当に今まで嘘ついててごめん」
俺も
「嘘だろ?」
と言ったが、彼女は真面目な顔してるし、本当の事だと信じた。
凄く怖くなって、俺はそれから何も考え無いようにして、
「ちょっと出かける」
と言って家を出て、人の居ないような農道をフラフラと歩いていた。
日も落ち始めた頃、やたら空が眩しくなってきた。
俺はボーっとその空を眺めていた。
それからしばらくして気が付いたら、病院のベットの上だった。
近くに看護婦さんが居たので話しを聞いた。
俺は自分が熱中症で倒れたんだと勝手に思っていたが、どうやら違ったようだ。
それどころか、この病院に入院して既に1年近く経ってる。
さらに、ついさっきまで起きてて、何か行動してたらしい。
もちろん、俺には記憶が一切無い。
外を見ると、初冬って感じで寒そうだった。
さっきまで夏だったよな…とか混乱する俺の元へ、医者がやってきて状況を説明してくれた。
高1の年明けに、自宅で撹乱状態の俺を、たまたま世話に来た祖母が見つけ、そのまま119番してくれたらしい。
正直、さっき家を飛び出して熱中症で倒れたと思ったのに、こんな事を話されても理解出来ない。
そもそも、高1の冬って彼女と出会う前だし、じゃあ彼女との記憶は?そもそも彼女は存在しないのか?
平然を装ってたが頭の中はほぼパニック。
ベットの中で頭を整理しても整理しても全然理解出来なくて、一週間くらい食事も殆ど食べれなかった。
でもよく考えると、バイト先に高1の自分よりが年下の彼女に会うことはありえないし、あの生活自体矛盾だらけだったし、現実を納得せざるを得なかった。
一時は自殺しようとも考えたが、結局ビビりな自分では死ねなくて、今まで統失の治療をしながらダラダラと生きてます。
今でも彼女の事は好きだし、夢であの同棲生活を見たりする。
そして泣いたりする。
おかしな彼女も、そんな彼女を持った幸せな自分も、まだ違う世界で幸せに暮してるのかな?とか思ってみたり。
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