まだ上京していて学生やってた頃の話です。
その日は夏休みでバイトも休みだったので、昼まで寝ていましたら、母から電話がなりました。
何やらエライ事が起こったとの事。
姉の友人の当時の彼が、心霊スポット巡りが大好きな人だったらしく、もう何回もお祓いを受けたりしてるのに、性懲りもなくまたそういう場所に行った後でした。
姉の友人とその彼が、彼の部屋にいると、彼が
「なんかオルゴールの音がしないか?」
と言い出したのです。
ふざけているんだと思った姉の友人は、
「しないよ~!やめてよー」
とか言っていたのですが、あまりに真剣に
「いや、する。絶対」
と言い張るので、部屋中あさったのですが音の主は見つからず。
何だか気味悪くなって、気のせいという事にして寝ようとしたのですが、彼が
「どうしてもオルゴールの音がする」
と言って落ち着かないのだそうです。
もう姉の友人は怖くてたまらなくて、彼をなだめつつなんとか寝ようと目を瞑っていました。
トイレに行きたくなったらしいのですが、我慢していると、トイレの窓に、ベッタリと顔をつけた女の顔が浮かんできたそうです。
その時、彼が姉の友人の手を握りました。
きっと怖くて握ったのだろうと思ったのですが、次の瞬間に、彼の手ではない事に気づき、もうそこで我慢できなくなって、姉の友人は家を飛び出したそうです。
そして姉に電話をし(我が家はこういう事が多いので)、姉は母に連絡をつけ、その日は朝までデニーズで過ごしたそうです。
朝になり、それぞれ家に帰り、母は誰もいない部屋で昼寝をしていたらしいのですが、物凄いラップ音が部屋中でしたそうです。
そこで私に電話をしてきたみたいなのですが、その話が終わる頃に電話の向こうから、
『キャハハハハハハハ』
と女の高笑いが聞こえてきました。
母にも聞こえていたそうです。
『電話なんかでこの話をしなかった方が良かったね。今度あんたのとこに行くから』
と電話をきりましたが、これが始まりだったのです。
その電話があってから、家に一人でいるとラップ音がし、金縛りも毎晩、その間、女の笑い声が延々聞こえてくるのです。
横向きに寝てたりすると、後ろから女の手が抱きついていることもありました。
金縛りなんかは正直慣れっこで、腹筋に力を入れてちょっと念じればすぐほどけるのですが、今回はそれも効果がありませんでした。
かなり強いのがきてしまったな…と思った時はもう遅く、精神的にもおかしくなっていました。
霊障によるノイローゼとかではなく、いわゆる取り憑かれてるという状態です。
親から電話がかかってきてもとらず、家まで来ても居留守をつかい、まったく会う気にもなりませんでした。
学校も行かなくなり、一歩も家から出ずに、何に関しても悲観的になってしまい、ついには自殺願望まで芽生えました。
毎日悶々とベッドの中で、どうやって死のうか、などと考えているばかりでした。
しかしその片方で、冷静で、また、そういうものと闘わなくては、と思う自分がいて、
(不思議なのですがこの時は、もう一人の自分が体の中にいるような感じでした)
”取り憑かれてる”というのも自覚していました。
いまになって思うと、悪霊などに取り殺されるというのは、こんな風に自暴自棄になって、自殺してしまうのだろうなと思います。
精神科とかに行けば、鬱病だと確実に診断されたでしょう。
そんな毎日の中、いつもの様に金縛りに合いましたが、右耳ではいつもの女の高笑いが聞こえ、左では男性よりも低い声で念仏を唱える声が聞こえました。
そしてフッと金縛りが解け、その頃にはもう朝だったのですが、すごく疲れて眠りにつきました。
夢を見ました。
亡くなった祖母が出てきたのです。
そこは海で、すごく静かでした。
海と砂浜と空がただひたすら続いているだけなんですが、強烈な青とかでなく、淡い灰色がかった色合いでした。
その海で、祖母は生前会いに行くと「よく来たねえ」と言ってぎゅっと抱きしめるのですが、そんな風に笑顔で私を抱きしめました。
目が醒めた時、涙が流れていました。
そして、今すぐ祖母のお墓に行かなくては、と思い立ちました。
その日のうちに、ろくに支度もせずに家を出ました。
祖母のお墓は日本でも有名な大きなお寺の中にあるので、お墓参りの際にお寺参りもしました。
お墓参りしなくては、と思ってはいたものの、正直実家に帰るつもりはなかったのですが、お寺から帰る際に、実家に寄らなくてはと思いました。
母は私を心配していました。そして、自分が今までどういう状態だったか話しました。
多分私は、
「そういうものの影響を受けやすいのだろう」
と母は言いました。(今はだいぶ強くなりましたが)
そして間もなく、私は実家に帰る決意をしました。
大学は、その時に休み過ぎた為に退学になりました。
いま現在の私の人生において、その時が一番の闇であり、失ったものは多いのですが、
(大学が退学になった他に、友人も何人か失いました)
それでも、あの時衝動に負けて自殺をせずに済んだだけ良かったと思います。
あの時は、大事な命を亡くなった祖母が守ってくれたのだと。
いまもどこかで見守ってくれてる気がします。
追記です
祖母のお墓参りした後から、女の気配はなくなりましたが、私がおかしかった頃、姉もまた自殺未遂をしたり大変だったそうです。
そして、事の発端になった姉の友人とその彼は、
「もう女にもすっかり慣れた」
と言って、共存してるみたいです。
いまでは姉も全く連絡を取らなくなったので、どうしているかわかりませんが。
ポポには、わからん。バケラッタなんてね