貧乏だったため、十年近く同じ扇風機を使っていた。
今日、その扇風機が不自然な壊れ方をした。
突然羽が折れたのだ。
毎年猛暑の度、
「もう少し頑張ってくれよな、相棒」
と俺が話しかけても、ひたすら首を横に振り続けた扇風機。
そんなことを思い出して、少し寂しくなった。
今年は経済的に少し余裕が出来ていたため、これを期にクーラーを買ってみることにした。
電車に乗って、チラシを見ながら某家電量販店に向かう。
その日は蒸し暑かったため、買い物ついでに少し、冷房の効いた店で涼んでいくことにした。
携帯を適当に眺めていたとき、不意に地面が揺れ出した。
後に知る事になるが、そのときの地震は震度6になる大地震だったらしい。
店内にいて事なきを得た俺だったが、もしあの日、扇風機が壊れていなかったとしたら。
怪我も無く家に帰れた俺は、箪笥の下で首を変な方向に曲げた扇風機が、俺にお帰りとでも言うように、首を振って待っているのを見た。
ありがとう、と俺は独り言のように呟いた。
扇風機は、その日初めて、首を縦に振ってくれた。
つけっぱなしだったのかよ。
電気の無駄使いだな
いろはにほへと血り塗る我が身
物悲しい…
筆者の気持ち解る。