今時の若者とは思えないほど真面目で頑固な兄がいた。
兄は一流大学を目指し、来る日も来る日も勉強に明け暮れていた。
小さい頃私はお兄ちゃんっ子で、毎日馬鹿なことして遊んでいた。
一緒にお風呂も入ったり、近くの川で魚を捕まえてこっそり二人で飼ったりもした。
夜は二段ベッドに寝て、面白かったアニメや漫画の話をした。
今の兄には昔の面影がなく、常に自分のことを考え常にトップに立とうとしていた。
誰からの力も借りず、自分だけを信じ勤勉に励んでいた。
県でもレベルの低い高校に通う私を見下すような目で見る兄。
私はそんな兄が嫌いだった。
本命校受験の一週間前から兄は部屋から出なくなり、食事も取らず一心不乱に勉強をしていた。
さすがの兄もプレッシャーを恐れていたのだろう。
私はそんな兄にあるものを買ってきた。
期間限定で発売された合格祈願のスナック菓子(ウ)カールだ。
神経が張り詰めている時、こういったユニークなもので少しでも兄の気持ちを和らげられれば、と思った。
カタブツの兄は嫌いだったが、心の奥ではまた昔の時のように仲良くしたかった。
兄は無言で受け取った。返されると思っていた私は嬉しかった。
そして試験は無事終わり、兄は見事本命大に合格した。
家族全員でお祝い、外食に出かけた帰りの車の中で私は兄に言った。
「私のあげたカールのおかげだね」
兄は面白くなさそうな顔で一言。
「食べないで捨てた」
ショックと言うよりは腹が立ってしょうがなかった。
同時にもうこの兄とは昔のような仲には戻れないと思った。
きっと大学でも馬鹿みたいに勉強漬けで、卒業後は一流会社に就職
エリート街道まっしぐらのつまらない人生をおくるのだろう。
ああこの兄にはピッタリだ。
それから3ヵ月後。
兄が交通事故に遭ったとの連絡が入った。
両親と病院に駆けつけた時、兄はもう息絶えていた。
ああ、なんてあっけない死を迎えたんだろう。
つまらない兄にはこんな人生がピッタリだったんだろう。
涙は出なかった。腹が立っていた。
あんな兄の為にどうして私が涙を流さなきゃならないんだ。
そんな残酷なことを平気で思える自分に嫌気がさした。
葬式を済ませた後、母と一緒に兄のアパートに向かった。
遺品整理をするためだ。
気が進まなかったが母一人では大変なのでしょうがない。
真面目で几帳面な兄らしく、部屋は気味悪いほど綺麗に片付けられていた。
本当にゴミ一つなかった。
母が衣服を整理している間、私は兄の勉強机の中を片付けるよう言われた。
(もしかしたらお金でも少し入っていないかな、あったらネコババしてやろう)
一番上の引き出しには受験関係の書類が残されていた。
本命の合格報告書も入っていて、顔に出さない兄もやっぱり嬉しかったんだと思った。
報告書の封筒を開けて、私は一瞬息が止まった。
丁寧に折りたたまれた菓子の袋が入っていた。
私があげた、カールの袋だった。
涙が止まらなかった。
やっぱりお兄ちゃんは、ずっと私のお兄ちゃんなんだね。
兄貴も兄貴でもっと素直に妹に接してやれていたら・・・ 泣けるぜ