仕事の帰り、同僚たちと飲みに行ったんです。
同僚たちは終電がなくならないうちに帰ったんですが、翌日が休みという事もあり、僕はもうちょっと飲みたい気分だったんで別の店でもう少し飲んで、始発で帰ればいいや…と考えてました。
飲み屋を探して繁華街をブラブラ歩いていると一人でガードレールに座っている女の子が目に入ったんです。
普段、そんな事はしないのですが、酒が入っている事もありちょっとナンパでもしてみようか…なんて思ったんです。
その女の子は、じーっとうつむいたままで顔は見えなかったんですが茶髪に白のノースリーブ、黄色のミニスカートにかかとの高いサンダル、といったいかにも遊び人風な格好をしていて、年は十代後半から二十代前半といった感じでした。
「ねぇ、一人?何してるの?終電行っちゃったよ?」
…などと、声をかけてみたのですが、まったく相手にされませんでした。
それどころか、こっちを見ようともしません。
「よかったら、一緒に飲みにいかない?おごるからさ!」
なおも声をかけ続けたのですが、女の子はじーっとうつむいた姿勢のまま身じろぎ一つしません。
酔っていた事もありムキになった僕は
「無視しないでよ!聞こえてるんだろ?」
と、言いながら女の子の肩をグイッとつかみました。
その瞬間、僕はビックリしました。
つかんだ女の子の肩がまるで氷のように冷たかったんです。
僕は急に怖くなって
「なんだよ、気持ち悪い女だな…
捨てゼリフをはいて、その場を立ち去りました。
その時も女の子は、じーっとうつむいたままでした。
すっかり酔いも醒めてしまい、もう飲むような気分でもなかったので漫画喫茶で時間をつぶし、始発が動き始める時間を見計らって店を出ました。
駅に向かう途中、僕は驚くべき光景を目にしました。
数時間前にナンパした、あの女の子がさっきと同じ場所、同じ格好でガードレールに座ってるんです。
じーっとうつむいた姿勢のままで…
僕は、もしかして死んでるんじゃないかと思ってちょっと怖かったんですが、近づいてみました。
すると女の子の肩は規則的に上下していて、息をしているのがわかりました。
僕はホッとするのと同時に、なんだか気味が悪くなって逃げるように家に帰りました。
何日かして、僕はあの日の出来事などすっかり忘れてしまいました。
ある日、仕事も終わり、帰ろうと会社を出たところで僕はビックリしてしまいました。
なんと、あの時ナンパした女の子が会社の前のガードレールに座ってるんです。
あの時とまったく同じ格好のまま、じーっとうつむいた姿勢で。
僕は内心ビクビクしながら足早にその女の子の前を通り過ぎました。
帰りの電車の中で僕は考えました。
なぜ、あの子が僕の会社の前にいたのか?
あの日、僕は自分の勤め先なんか言ってません。
それどころか、僕の名前すら教えていないんです。
結局、彼女が会社の前にいたのは偶然だった…僕はそう思うことにしました。
でも、その日から僕の行く先々に彼女が現れるようになったんです。
自宅の前、会社、近所の公園、コンビニなどいつも同じ格好、同じ姿勢で、じーっとうつむいてるんです。
別に何かされる訳でも、何か言われる訳でもないんですが逆にそれが不気味で・・・
その日も仕事から帰る途中、公園のベンチに彼女が座っていました。
彼女の異常ともいえる行動にノイローゼ気味になっていた僕は
「なぜこんな事をするんだ!」
と、彼女を怒鳴りつけました。
「もう、いいかげんにしてくれ!」
それでも彼女は身じろぎ一つせず、こっちを見ようともしません。
じーっとうつむいたままです。
イライラした僕は
「これ以上付きまとったら、ただじゃおかないぞ!!」
自分でも驚くほどの大声をだしていました。
その時、いままでピクリとも動かなかった女がたじろいだように感じました。
そして、ゆっくりと僕の方に顔を向けるように動き出したんです。
突然の出来事に、僕は動けなくなっていました。
じょじょに頭が持ち上がって行き、もう少しで顔が見えると思った瞬間なにかヤバイ!
この女の顔は絶対に見ちゃいけない!!
僕の直感がそういっているように感じました。
僕は気力を振り絞って全力でその場から逃げ出したんです。
本当に恐ろしい体験でした。
本当に生きているのか?