叔父に聞いた話。
今はどうか知らないが、昔は当り屋という商売があった。
自分で車にぶつかっておいて運転手に因縁をつけ、慰謝料や口止め両をふんだくるという、ヤクザな生業だ。
叔父が小学生のころ、自転車ごと車にはねられたことがあった。
幸いたいした怪我もなかったのだが、運転手が車から降りてくると突然見知らぬオッサンが横から現れて
「おい、俺のガキになんてことしてくれたんや」
と運転手に迫った。
叔父が怖さと痛さで泣いていると、オッサンは金銭を要求しだした。
もめた末、オッサンが運転手をどつくと運転手は悲鳴をあげて車に乗り込んであっという間に逃げてしまった。
オッサンは
「済まんかったな坊主」
といって慰めてくれた。
叔父はなんとなくこの人は当り屋だと分かったという。
それを聞いてみると、
「俺はな、むかし無茶しすぎていま体ボロボロや。首は何度もやったし、肋骨も一本ないんやで」
そう言って胸を触らせてくれた。
その時異様な胸の冷たさに叔父はぞっとしたという。
「それにな、心臓もないんや」
無理やり触らされると、そこも冷たくて確かに鼓動はなかった。
「じゃあ、俺あの運転手追いかけるわ」
そういうとオッサンは叔父を残して去っていった。
あれはこの世のものではなかった、と口癖のように言う。
コメントを残す