俺がまだピチピチの中学生だった頃、夏休みの宿題で国語辞典をネタに読書感想文を書いてきた勇者がいた。
最低3枚書いて来いと言われれば、2枚+1行分で3枚分と主張していた我々だが、彼は3枚目最後の行までギッチリと埋めて提出していた。
そんな彼の力作が担当教師の目にとまらないはずが無く、名誉ある『生徒玄関前掲示板』に、他の優秀作品数点と共に張り出されていた。
彼の文章には、国語辞典をネタにしたとは思えない程の勢いがあり、最初の数行を読んだ時点で、多くの読者が彼の描く世界に引き込まれていった。
まず、国語辞典の前書きについて率直な感想(ツッコミ)を入れ、斬新な角度から著者の履歴をバッサリと斬り、2枚目に至って、ようやく単語の解説に対する彼なりの意見が書き込まれていた。
その彼が最初に索引した単語は『愛』である。
恐らく彼は、単純にあいうえお順に頁をめくったのだろうが、そこから先は、その作品が完結する3枚目の最終行まで、彼の主張する『愛』についての文章がギッチリ詰まっていた。
彼の愛は純情で繊細、読んでる我々が頬を赤く染める程で、途中から『愛』ではなく『LABU』(LOVEのつもりらしい)に呼称が変わり、男女の愛について、自分の体験談まで交えて書き綴られていた。
その中で出てくる『A子』という微妙に具体性のある仮名だが、良く見ると『A』の文字が、何かの文字を一度消しゴムで消して後で『A』と書き直された形跡が、全ての箇所で発見された。
我々読者は、それを発見しただけで彼の甘酸っぱい想いを胸いっぱいに感じ取る事が出来たのだった。
最後に教師から一言コメントが書いてあり、そこには・・・
『残念ですが、愛と恋を混同しているようですね。次は『カ行』まで調べてから感想文を書いて下さい。』
翌年の彼は、2枚+1行のやる気の無い感想文を提出していた。
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