知り合いの話。
その昔、彼女の祖父がまだ炭焼きをしていた頃の話だ。
煮炊きに使う薪を集めに山奥を歩いていると、見覚えのない広場に足を踏み入れた。
はて、この山ン中にこんな開いた所があったろうか?
見れば下生えも綺麗に刈られていて、歩き回るのにも支障がない。
明らかに人の手が入っている。
広場の真ん中に、古びた祠みたいな物が見える。
近よってみたところ、そこには奇妙な物が並べられていた。
人を象った、不格好な木彫りの人形。
誰が拵えた物かわからないが、五体ほど等間隔で置かれていた。
見ているうちに何故か気持ち悪くなり、逃げるようにそこを後にしたそうだ。
炭焼き小屋に帰ってから、居合わせた里仲間に自分の見たことを話してみた。
「サンコウさんの土地に入り込んじまったんだな」と言われた。
サンコウさんとは、そこの山神の呼び名だ。
「人形ってのは今年、サンコウさんが取ると決めた人の形代だろう。お前さん、山で仕事するんなら気を付けるがいい。機嫌損ねると、その五人の内の一人になっちまうぞ」
「嘘か誠かはわからんが、そう言われたんだよ。だからって訳じゃないが、山ン中にいる時は粗相しないよう心掛けたよ。幸い、サンコウさんに取られもせず全う出来た。有り難いことだ」
祖父はそう彼女に語ったという。
最後にこう付け加えた。
「それにしても不思議なのは、あの広場には二度と辿り着けなかったことだ。サンコウさんは、何で儂にあそこを見せたんだろうな」
試されたのかも