3年前、俺の会社がいよいよ危なくなったとき、俺の上司に人員整理役が廻ってきた。
彼は、当初会社の命令に従って対象者の選別などをしているように見えたが、やがて数日間思い詰めたようになり、会社を辞めた。
俺は「2人も子供がいるんだし、何も辞めることはないだろう」と説得したが、聞かなかった。
俺は彼を慕っていたが、そのときの彼が俺の心の内を見透かしたようにニヤニヤ笑っていたことに、少し腹が立った。
彼の後、俺に白羽の矢が立った。
第一段階として5人切れと言われた。
リストラ候補には、俺を慕ってくれている奴の名前もあったし、俺を可愛がってくれたオッサンの名前もあったが、俺をいじめた上司や仲の悪い奴も5人以上含まれていた。
でも俺は何だか面倒くさくなって、1人も切らずに会社を辞めた。
入ろうと思ってもそう簡単に入れないレベルの企業だったが、何の未練も無かった。
後輩が「2人も子供がいるんだし、何も辞めることはないだろう」と説得したが、俺は聞かなかった。
会社を辞めた日、帰宅して家族に会社を辞めたことを伝えた。
このご時世に半ば衝動的にこのような行動を取ったのだから、相当非難されることを覚悟していたが、誰も俺を非難しなかった。
俺は、どうしようもなくデキの悪いバカ息子と、何かと反抗的なバカ娘に感謝し、泣いた。
その後、何とか地元の町工場に職を見つけた。
社長の人柄なのか、会社の雰囲気もいい。
ストレスが無くなったせいか、酔って帰って家族に当たり散らすようなことも無くなった。
休日も家族揃って外出することが多くなった。
リストラ候補だった後輩数人とは今でも交流が続いている。
彼等は、当時自分が候補だったことを知っていたらしい。
苦労して得た職を失って、収入も半分になったが、それと引き換えに俺は本当の幸せを手にしたと、今でも信じている。
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