私が体験した本当の話。
中学2年生の夏休み、いつもは両親とそろって帰郷していたがその年はどちらも仕事とパートの関係でどうしても私と一緒には行けず、はじめて一人で帰郷することになった。
田舎について最初の夜、田舎の生活習慣が暗黙のうちに”11時を過ぎたら皆とりあえず部屋に戻る”となっていたので、テレビの置いてある部屋の電気が消されてしまい、仕方なく俺のために用意された部屋に戻った。
いつもなら両親と3人で来ているため3人分の布団が敷いてあるはずだが、1人分の布団しかしかれていない。
家でも自分の部屋をもらい、一人で寝るのは慣れているはずだが記憶の中にある風景とは違っていたからか、なんとなく心細い気がした。
中学生の夏休み、部活にも入ってなかった私は当然、規則正しい生活なんてしていなかったため、夜11時に眠れるはずもなく、かけていた眼鏡を枕もとにおいてなんとなく天井を眺めていた。
そのとき・・・・
そのとき、視界の隅のほうでなんとなく”動いている物”が在るのに気がついた。その動いている物の方を見てみると天井の四隅の一角、つまり部屋の角の所になにやら渦巻きのようなものが見えた。
しばらく目を細めてそれを見ながら、目線を外さずに手探りで枕もとの眼鏡を取った。眼鏡をかけると月明かりで部屋が明るいことのあってより鮮明にその渦を見ることができた。
それは渦というよりもブラックホールに近い感じで、黒いもやが中心に向かって渦を巻きながら吸い込まれている。
私は数分間その渦を見てからおもむろにその渦に近づいた。おそらくこの世のものではない、不思議な現象であることはわかっていたが、具体的に女の幽霊や自分の体が動かなくなったりするわけではなかったのでそれほど恐怖は無く、まさに珍しいものを見ている感覚だった。
そしてその渦の目の前まで歩いていき・・・・
そしてその渦の前まで歩いていき手を伸ばせば届く距離まで近づいた。
渦の直径は約30センチぐらいだった田舎の家自体は大変古いもので天井の位置は近代家屋に比べ低く、また私の身長も170センチちょっとあり背は高いほうだったのでその渦に手を伸ばした。
手の感触としては冷たくも暖かくも無く風も感じない、手をもっていき渦の目の前まできたときはさすがに恐怖を感じたがおもいきってその渦に自分の手を入れてみた。
不思議だった、というよりも明らかにおかしかった。
本来そこは部屋の角、手を伸ばせばそこは天井か壁であるはずなのにそこには空間が広がっていて手手首が渦の中にすっぽり入ってしまった。
そこで私の恐怖心は完全に麻痺してしまい、好奇心が完全に勝ってしまった。次に私はあろうことか小さな木製の一人用の机をもってきて、踏み台にしてさらに手を奥へと入れた・・・・
すると今度は肘のあたりまで手を入れることができた、中で軽く手を振ることもできる。
黒い雲と壁の雲側の境界線近くでは壁の感覚があり、それ以上渦の中心から外側へは行くことができない。
しかし奥行きはおいそれと測ることはできないぐら広い、まるで口が直径30センチの壷に手を入れているみたいだった。「これはいったい何やろうなーー」と思いながら手を引き抜いた。
いや、正確にはひきぬこうとした。
中に手を入れている間はまったく手にあたる間隔は無かったが手首の所まで引き抜いてみると自分の手に真っ白な女の人の手が捕まっているのが見えた。
私は「うわっ」とつぶやいて手を最後まで引き抜こうとした、しかし手の甲の部分まで外に出たところでそれ以上引き出せない。
特に私の手を掴んでいる真っ白な手に掴まれている間隔は無いがどうしても手の甲の部分からは外に引き出せない。
まるで自分の右手だけが金縛りにあってるみたいだった。
私はだんだんあせってきて「どうしよう、どうしよう、どうしよう」と考えていると、ふと渦のほうを見ると自分の手の甲の半分ぐらいが渦の中に入っている。
「あれっ?」注意してよく見ると私の腕がゆっくりとしかし人ではどうしようもできない大きな力で引きずり込まれていく。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい
私は壁に足をついて足で踏ん張るような格好で力いっぱい引き抜こうとした、しかしまったく抜ける様子は無く徐々に手が引きずり込まれていく・・・・・
私はついに泣き叫びながらたすけてーーーーーと広い家中全部に聞こえるぐらいにわめき散らした。
すると1分もしないうちに家中のいとこ、叔父夫婦祖母がいっせいに部屋のふすまを開けた。
が、部屋の異様な光景に誰も何も言わないまま呆然と、俺と渦から出ている白い手との格闘を少し離れたところで立っていた。
少しして急に気がついたように2つ年上の従姉が「電気!電気!」と叫びながら部屋に入ってきて部屋の真ん中の電灯の紐を引っ張っり電気をつけた。
すると・・・・
すると電気をつけた瞬間その電灯が渦をかき消すようにフッと渦が消えてしまった。
私の手は渦が完全に消える前に何事も無かったようにスッと抜けてしまいそのまま勢いよく畳に落ちた。
それから、その日はすっかりテンパッてしまい一晩中恐怖心とあの白い手が頭から離れずに真夏の夜というのに震えていた。
次の日、叔父に「とりあえず家に帰ったほうが良いやろ」と言われ私は叔父の車で送ってもらい家に帰った。
後日、従姉に聞いた話では祖母が何やら怪しい霊媒師を呼んで霊視してもらったらしいが、どうやらそこは霊の通り道というらしくて、お盆が近くなったからとか何とか言ってたらしい。
叔父が半信半疑ながらもとりあえずその穴を塞いで欲しいと頼んだら「霊の通り道は塞ぐことなんてできません。」と断られたらしい。
結局それだけで決して安くない料金をもらい挙句昼飯まで食ってその霊媒師は帰った。
その部屋には今でもTVやあまり使わない洋服が置かれているが、時々TVが勝手についたり消えたりしたり、一人でTVを見ていると背中に気配を感じることがあるらしい。
(私はその一件以来、こわくてその部屋にあまり入らない。)
私はこの体験を一生忘れることはできないでしょう。
あの「渦」と「真っ白な手」、そして何よりも渦が消える瞬間に聞いたあの
くそぉ
という女の声を。
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