両親が離婚して、私は母方についた。
数年してから父に飲みに行こうと誘われた。
正直、めんどくさいから嫌だなーって思ったんだけど、行く事にした。
その理由は、「逃げ出した父」を前にして自分が何を思うのか知りたかったからだ。
私には兄弟が二人いるんだけど、その二人とも父に対しては憎しみや嫌悪感があるらしい。
私は父に対して何の感情も湧かない。
でも、会ってみたら何らかの感情が湧くのではと、思い、会ってみる事にした。
前より少し痩せた父親に再会。
父は、今どんな風に暮らしているのか、私たち兄弟は元気なのか母は元気なのか・・・などどいう事を飲みながら話した。
私はただ酒を流し込みながら、聞かれた事に答え、父の話を聞いていた。
特に盛り上がらずに店を出た。
量としてはかなり飲んだのだけれど、私は酔えなかった。
少し歩いたところで、父親が私を突然抱きしめ「何かあったら力になるからいつでも連絡して来い」と、連絡先の書いてある小さな紙切れを私に握らせた。
そして、そこで父と別れた。
私は歩いて家に帰ることにした。
一人で暗い夜道を歩く。
涙が出た。
私は再会した父に対して、何の感情も湧かなかったのだ。
憎しみも、嫌悪感も、憐れみも、愛しさも。
何か、何か思うだろうと期待して、そして会う事にしたというのに。
兄弟たちが羨ましい。
少なくとも憎しみや嫌悪感という感情と共に父を想う事ができているのだから。
私は泣いた。
私の中で父は抹消されている。
何も感情が湧かない自分が悲しくて、泣きながら歩いた。
私は非常にお父さんっ子だったのだ。それなのに。
とぼとぼと歩いていると、一台の車が近づいて来た。
母だった。
母が迎えにきてくれていた。
車の助手席で、私は「まあ、元気そうだったよ」と母に言った。
母は「そう」とだけ答えて何も言わなかった。
内心複雑なのだろう。
母と父は離婚という形で切れてしまっても私たち兄弟は父と一生血の繋がりというものがある。
「退屈だったよ」と言ったら、母は苦笑していた。
母も父に対しては何らかの感情を持っているはずだ。夫婦だったのだから。
私は血の繋がった親子なのに、何一つ想う事は無かった。
ただ、そんな自分が悲しかった。
もう、父親に関する記憶は薄れてきている。
もう、父と酒を飲むことはおろか、会う事も無いだろう。
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