10年くらい前、中学の時の話です。
うちのクラスにN君という、オタクで濃いヒゲが生えてて、けっこう馴れ馴れしいんだけど気持ち悪い人がいました。
ある日のこと。
まだ教室に男女十数名が残っていた放課後、オレが学級新聞を広げて『これ面白くねー!?』と周りの友達に言ってたら、Nも興味を示して近くにやってきました。
そこであまり好きではなかったNにちょいとイジワルしてやろうと思い、『Nには見せねーよ!』と言ったら…
よっぽど屈辱的だったのでしょうね。
突然Nが『ぬ゛ぉーー』と声をあげて教室にある椅子を一つ、思いっ切り蹴り上げました。
そしたら椅子が見事にバック中して、またシュタって元に戻りました。
綺麗な円を描いて跳んだ椅子を見た時、オレは何故かマトリックスのトリニティのイメージと重なりました。
それくらい美しい光景でした。
しばらく無言の後…
彼の意外な行動と奇跡の瞬間を目の当たりにしたクラスのみんなは、Nに集まり彼を褒め称え、もう一度やってくれとせがみました。
こんなに一度に注目されたのはきっと人生で初めてだったのでしょう。
調子に乗ったNは再び『ぬ゛ぉーー』と(ちょっと盛った感じで)椅子を蹴り上げました。
でも、人生はそう甘くありませんでした。
椅子は大きな音を立てて転がり、そこにいたクラスメートの『なんだ、やっぱマグレか。ってか椅子うるせぇし。』の一言でみんな散っていきました。
この時のNの悲しそうな顔は、今でも目に焼き付いています。
こんな可哀相なNですが、この出来事の2日後にオレは彼を好きになりました。
なぜなら、誰もいない空き教室でNが何度も椅子を蹴り上げているのを見てしまったからです。
彼の姿に心を打たれました。
今まで秘密にしてきましたが、来月ある同窓会でNの頑張りを伝えてあげようかと思っています。
Nは欠席ですけど。
長文でしたが、最後まで読んで下さりありがとうございました。
『バント職人(年齢24歳・♂)』さんからの投稿です。
ありがとうございます。
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