小さい頃、夏休みに1ヶ月ほど田舎の祖父母の所に預けられた事がある。
我侭いっぱいに育った俺は、近所の子供達に受け入れられるはずもなく、
いつも一人、河原で遊んでいた。
そんな俺にも友達ができた。
そいつも友達がいないようで、いつも一人だった。
そいつはいつでもにこにことしていて、俺の益体も無い自慢話や、偉そうな態度に「うわー、君って凄いんだ~」とか、「わー、かっこいいなー」とかの賛辞を惜しまない。
俺もちょっと子分ができたようで、嬉しかった。
何にでもすぐ感心してしまうそいつは、俺が東京から持ってきたおもちゃに目を丸くしていた。
「今日は特別に貸してやるからな、好きなので遊べよ」
意外な事に、そいつが選んだのはビー玉だった。
「おいおい、ラジコンとか合体ロボとかあるんだからさ、それで遊ぼうぜ」
「うん…でも、これ、とってもきれいだよ…」
そう言ってそいつは、ビー玉を日にかざして、うっとりしていた。
ビー玉も買ってもらえないのだろうか。俺はそのことが哀れに思われた。
「…そんなに気にいったんなら、やろうか?それ」
「!!いいの?!ホント?ありがとう!大事にするよ!君って本当にいい人だね!」
ビー玉如きで…という思いはあったが、何となくいい事をしたような気がして、俺はちょっぴり嬉しくなった。
数日後、そいつは変な事を言い出した。
「はぁ、ビー玉作るのって難しいねえ」
「何?」
「ほら、君がくれたやつだよ。君が作ったんだろ?」
ぐっとつまったが、さんざん偉そうな事を言っていたので、今更後へは引けず
「そうさ、俺が作ったのさ。まあ、ちょっとコツがいるかな」
「ボクが作ると最初は綺麗なのに、そのうち、ちっちゃくなっちゃうんだ。ねぇ、コツを教えてくれないかなあ」
???な、何か考えないと…
「そ、そうだな…全部教えちゃうとお前の為にならないから、ヒントだけな…え~と…そう、水分。水分をあたえないと。ま、言えるのはこれだけだな」
汗をかきながら俺が言うと、そいつは腕をくんで考え始めた。
「う~ん、ボク、君みたいに頭よくないから、難しいなあ。でも、後は自分で考えてみるね!ありがとう!」
それからしばらくして、俺は東京に戻る事になった。
そいつにその事を告げると、はらはらと泣きじゃくった。
「せっかくいい友達が出来たのに…君がいなくなると、つまんないよ」
「まあ、そう泣くな。また来年来るからさ」
「…うん!淋しいけど、我慢するね!…あっ、そうだ、もうすぐあれ、出来そうなんだ。明日君が出発するまでに作るから、お土産にあげるね」
「何?」
「イヤだなあ、ビー玉だよ!君のヒント難しいから、苦労しちゃったよ。だって、川で洗うと中身が流れちゃうし…でもね、いい方法思いついたんだ!」
「ふ、ふ~ん。そうか。楽しみにしてるよ」
翌日。
迎えにきた母と、東京に帰るべく畦道を歩いていると、そいつは走ってきた。
「はぁはぁ、間に合ってよかった…これ、約束のお土産…一番綺麗に出来たやつ持ってきたんだ…こうやってるとね、ちっちゃくならないし、綺麗なままなんだ…じゃ、また来年来てね!きっとだよ!」
それだけ言うと、自分の口から何かをぽんっと吐き出し、俺の右手にそっと乗せた。
そして走り去った。
「こちらでできたお友達かしら?何をいただいたの?」
硬直している俺の右手の上にあるものを覗き込むと、母は絶叫した。
その翌年、俺は田舎に行かなかった。
いや、それ以来一度も行っていない。
だから、そいつがどうなったのか全く知らない。
でも、俺の机の引出しには、大人になった今でもあの「お土産」が入っている。
干からびた緑色の猫の目玉が。
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