数年前、友達二人と肝試しに逝ったときの話。
俺たちは有名な廃病院に逝くことになった。
そこは元精神病院で、深い山中に建っていた。
廃病院に着くと、なんともそれっぽい雰囲気が漂っていて、いかにもな感じだった。
中の空気はひんやりとしており、朽ち果てた院内にはDQN参上!系の落書きなどがあった。
しかし他に何が出るわけでもなく、めぼしいものは、患者のものであろうか、窓辺に座らせてあった赤い人形くらいだった。
友達の一人Aがそれを拾い上げると、いきなりとんでもないことをしでかした。
人形の首をねじ切って、頭を窓から投げ捨てたのだ。
俺は慌てて言った。
「なにしてんだよ!」
「首が無いほうが後から来たやつら怖がるんじゃねえかな。」
Aはそう言い、人形を地面に捨てた。
そして俺たちは病院を後にした。
車を走らてからしばらくして、俺は尿意を催した。
「ちょっと止めてくれ。立ちションしてくる」
俺は少し林の中に入った。
適当な場所でチャックを下ろし、何気なく前方遠くの山を見た。
緩やかな線を描いているはずの山の端が、一箇所だけ不自然に半球状に盛り上がっている。
なんだろう?そう考えてからすぐに気付いた。
目の前に誰か居る。
心臓が縮み上がるような感覚に襲われ、俺は身動きが取れなくなっていた。
眼前わずか20cmほどに、俺よりもやや身長が高めの真っ黒い影がある。
暗闇には既に目が慣れているはずだったが、目の前のそれはまさに影そのもので、表情はおろか性別すらもわからない。
しかしモヤのようではなく、確かに俺の前に存在している。
そして影は口を開き、こう言った。
「首をとったのは……あなた?」
その声は中性的で、女性の声をスローで再生したような声だった。
即座にあの赤い人形を思い出した。
全身総毛立ち恐怖で失神しそうになりながらも、俺は首を横に振るだけで精一杯だった。
俺の意図が通じたのか、影は一瞬だけぐにゃりと揺らぐと、頭のてっぺんを何かにぴっぱられるような動きで俺の横を通り抜けて逝った。
俺はその場にへたり込み、しばらく震えていたが、首を千切った友達のことを思い出し、車に急いで戻った。
車はハザードランプを灯していた。
駆け寄ると、中にはハンドルに突っ伏しているAの姿があった。
もう一人は後部座席で寝ている。これは最初からだ。
「おい!A!大丈夫かA!!」
Aを揺さぶり声を掛け続けるも、Aは気を失っているようでまったく反応しない。
後部座席で寝ているBを起こし、とりあえずAを後部座席に移すと俺たちは急いで車を出した。
しばらくしてAは意識を取り戻した。
Aの顔色は土色で、血の気が完全に失せていた。
「大丈夫か?」
Aは何も答えない。
俺はAに林の中で会ったモノのことを聞いてみた。
「あいつに何かされたのか」
「あいつってなんだよ?」
ずっと寝ていたBは横から口を挟んだ。
「あぁ、林の中で…」
「やめろ。」
言いかけた途端Aがそれを制した。
そしてその日はそれ以上あの件について触れることなく解散となった。
その後も何度かAに何があったのかを聞いてみたが、そのたびにAは押し黙り、絶対に教えようとはしなかった。
なぜAが話したがらないのかはわからない。
今でもこの話は俺たちの間ではタブーになっている。
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