小学校の四年のころ、家の近くに飯場兼資材置き場があった。
ある日Kという転校生が来た、そこの子だった。
Kは転校が多かったからなのか、あまり友達のできないタイプだったからなのかいつも一人だったが、俺の家と彼の住む飯場が目と鼻の先だったので俺とKは友達になり、俺は入ったことがない飯場の中に何度も入れてもらって意味もなく有頂天だったし、Kも俺の家に来て一緒に遊んだ。
Kはほんの数ヶ月で転校していって、俺もKのことを忘れ飯場はなくなり、歳月は流れバブルがやってきてそこはマンションになっていった
最近、家の近所にヤクザそのまんまのベンツが止まっていてその前を通ると中からやはりヤクザそのまんまの男が降りてきた。
こっちを凝視するその男に俺は警戒し、子供の手を握った。
その男は礼儀正しく俺に話し掛けてきた
「あそこに二十五年前あった飯場をご存知ですか?」
俺はその男を土地の権利関係のブローカーだと思ったが、関係ないから「憶えてますよ」と答えた。
「○○(俺の名前)さんですか?」
「そうです。」
「あそこに二十五年前住んでて一時期○○小学校にいた子を憶えてますか?」
「Kか?」
「そうです!!」
名前を憶えていたことがよっぽど嬉しかったらしくKはその場で嗚咽した。
この四半世紀どんな人生を送ってきたのかは推して知るべし家に誘うとKは固辞した。
「あんたのお母さんは、やさしくて上品で、映画の中にいるような人でした。俺はあんたに遊んでもらったことよりも、あのお母さんが忘れられないんです。だから・・・・会えないです。」
同級生だった俺との会話にKは、ちょっと変ではあるが敬語で通した。
また必ず会いに来るから、と名刺を渡してKは去って行った。
今年、Kから年賀状が来た。
「お母さんに今度ご挨拶にうかがいたいと思っております」とあったから俺も返事を書いた。
「うちの母もKのことはよく憶えてるそうです」と。
ちなみにうちのオフクロはせがれの俺に言わせればおっそろしいババァなんだが…。
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