大学の先輩が、いつか酒の席で聞かせてくれた話です。
先輩のお母さんは、まだ先輩が赤ん坊の時に離婚してから、ひとりで先輩を育ててきました。
お金がないので保育園にもやれず、先輩は一人で家に置き去りのままだったそうです。
ある日お母さんが早退けして家へ帰ってくると、先輩が誰かと話す声がします。
驚いて子供を見ると、先輩はひとりで空中に話しかけ、相づちを打っていたのだそうです。
先輩はそのころのことをよく覚えていないそうですが、物心ついたときから「黒い影のようなもの」が自分の周りにいることはわかっていたそうです。
「黒い影」は幼い先輩の友達であり、親代わりのような存在でした。
先輩が一人になると、「黒い影」は先輩に優しい言葉をかけ、一緒に遊んでくれました。
先輩は幼な心に「黒い影」のことをお父さんと思っていたそうです。
(もちろん、本当のお父さんは違うところにいます)
不審に思ったお母さんが四六時中先輩を見張るようになると、「黒い影」は姿を消しました。
今でも時どき身の回りに「黒い影」の気配を感じる、と先輩は言います。
ベッドの下やドアの陰に「黒い影」は隠れていて、少し寂しそうに笑っているのだそうです。
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