もう10年も前の話だけど…。1年の期限付きで海外出張をした。
新しい人間関係が新鮮で、長年つき合ってた彼女への連絡も忘れがち。
仕事場では金髪美女との火の出るようなアバンチュールもあり、竜宮城の浦島太郎状態だった。
何食わぬ顔で帰国したら彼女が「好きな人が出来たから別れて」と言う。
「終わるときはあっさりしたもんだな」と思いながらさめた気持ちで砂をかむような最後のセックスをした。
その後俺は地方支社の管理職として栄転し、彼女からは時々近況を知らせる手紙が来た。
「もう別れたんだから連絡するな!」と電話し、彼女は「ゴメン」と誤った。
やがて彼女から地元の資産家へ嫁いだ事を知らせる葉書が届いたが、「カネに転んだ汚い女だ」と軽蔑しただけだった。
それから1年、引っ越しの荷物整理で彼女からの手紙を読み直し、便せんに涙の後が沢山付いていることに初めて気づいた。
共通の知人に「何考えてんだろうな」と笑いながら話したら、「おまえの海外出張中、あの子の父親に末期癌がみつかり、医療費で借金がかさんだ。親の面倒を見るために、転勤族のおまえとは結婚できなかったんだよ」と聞かされた。
その話を裏付けるように、彼女の父親が死亡した。
俺は手紙を抱きしめて泣いた。
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