とにかくその後、私はご飯作りました。背筋にぞわぞわしたものを感じながら、作りました!
電話したかった。助けも求めたかったけど、怖くてそれどころじゃ…。
なんで携帯の充電器忘れちゃったんだろうとか後悔しながら、肉しかないような料理をつくって、大皿は一枚しかないし、唯一の大きなお鍋に入れて運んだんです。
「不細工な見かけねえ」
「入れ物ないんですよ。堪えてください」
そして、とにかく片付けようとしたら、後ろで6人が貪り食ってるんですよ…。
大鍋一杯の肉料理を。しかも、その時気がついたのですが、彼女とんでもない大食らいなんです!
信じられないかも知れないですが、お肉の三分の二ぐらい一人で食べてたんじゃないかな。
その食事風景の異様なこと!しかも、片手には1リットル牛乳!!恐ろしい!!!
この時にはもう、厨房たちの追い出しも諦めてました。だって、また表で騒がれでもしたら…
以前に止まりに来た友人がお酒を飲んで騒いだ時にも怒られてるので、(彼女はいい人です。 その時だけ羽目を外しただけで、今も仲良くしてますし、反省してくれてます)
また騒動になったらと思い、とにかく明日のコミケ本番まで我慢しようと思いました。
それに一度友人から電話が入る予定なので、その時にSOSをと思って…。それまでの辛抱だと思って、私の方はもう食欲なんてないので荒らされた部屋を片付けながら彼女たちの晩餐を眺めてました。
そして食べ終わった後、とにかく片付けをしてお風呂を沸かしましたよ。もてなしのマナーがないとか怒られながら(泣)。
正直、無邪気に私に会えて嬉しいとはしゃぐ厨房たちの方が万倍可愛く見えました(号泣)。彼女たちは原稿見たいとか、スケブ書いて下さいとか程度なので…と、この時は思ってましたが。
そして夜。一組しかない布団は当然彼女に奪われ、厨房たちがその回りでとぐろを巻いてるのを横目に明かりを消されて、私は恐怖でどきどきしながらまんじりともせずに電話を待ちました。
私が電話を掛けようとすると彼女に「どこへ掛けるつもりなの?」と怖い顔と声で聞かれるので。
こっち見て眠っている彼女が今にも目を開けそうで、本当に怖かったんですよ!!! ミザリー見て味わった恐怖の何倍も怖かった…。
そして、いつまでも鳴らない電話に内心で最後は恨み言を言いながら、夜が明けて。 見てしまいました。電話線、引き抜かれてたんです…。
引き抜かれた電話線を震えながら見て、カチリと差しこんで、私はとにかく誰かに電話をしようと 受話器を取りました。そっとです。で、でもその瞬間、
「どこに掛けるの?」
こっちを向いたまま寝ていた彼女の目がぱっちりと開いて、聞かれたんです!
いつのまにか起きてたんですよ!!私は本気で震えながら聞きました。
「で、電話線が抜けてるんだけど…」
「寝てるときの電話ってうるさいでしょ。それより、お腹が空いたわ」
まんじりともせずユラリ、と起きあがった彼女が怖くて、私はとにかく朝食を作りました。
見かけ、十人分ぐらいは。その頃には厨房たちも起きあがり、一緒に食べれば?の誘いを必死に蹴って私はもうどうでもいいから早く彼女らが、いえ彼女だけでも消えてくれと祈ってました。
厨房もいやです。でも、私には彼女の方が何倍もいやだったんです。
頼まれても食欲なんかかけらもない私はただひたすら事が終わってくれますようにと祈りながら 部屋の片隅で座ってました。昨日の今ごろは今日の本番をわくわくしながら待ってたのに(泣)。 信じられない。
そして食べ終わった彼女はおもむろに立ち上がり、 「じゃあ、行きましょうか」 と厨房たちに言いました。厨房たちはまだ私に未練があるようでしたが、やっぱり彼女が怖いのかな。
おとなしく返事をして言われるままです。
そして「ご苦労様。じゃあ、この子たちは連れて行くから。おいたをさせたわ。叱っておくからね。…会場で会いましょう」
会いたくないです!一番のおいたはあなたです!!
…そんなこと言えるはずもなく、私はこくこく頷いて彼女たちを叩き出し、とにかくチェーンかけて鍵もかけて、
ずるずる崩れるように泣きました。
それで、とにかく凄まじい食事後を片付けて、手を拭いたところで漸く電話が鳴って、今日一緒に行く予定の友人の声が聞けたのです。
でも、でも内容は…。 「心配したよォ。電話出ないしさ。あ、でも香葉さんからメール来てた。うっかり蹴つまづいて彼女が抜いたって?美人なのにドジね。でもしっかりしてるし、あんたの友達じゃ一番じゃない?」
とんでもない!でも、先手を打たれてました。
「それで、宿のない子達泊めてあげたって?人がいいのもほどほどにしときなさいよ。よかったね、彼女がいてくれて」
…なんだか、もう(泣)。このときにすぐ話してもよかったのですが、なんだか全身の力が抜けて、
私は電話を切ってへたりこんでしまいました…。落ち着いたら、ちゃんと言おう。そう思ったんです。
それでもなんとか会場について、…この友達も実家の母、そして前の私同様彼女のことすっかり信じていたものですから言うに言えなくて。せっかくのコミケです。終わってからって思ってたのが仇でした。
会場についてかばんを見たら、なくなってたんですよ。サークルチケット。
私は個人サークルですが、実はこの友達も自分のサークルを持ってるので誰もチケットを使いません。三枚纏めて入れて あったそのチケットが、きれいさっぱり封筒から消えていました。誰にも渡す予定がないとは言え、ゲート前で凍り付きましたよ(号泣)。
でも、友人を撒きこむわけにはいきません。私は友人を送りだし、泣く泣く一般の列へ並びました。
盗んだのは多分厨房たちです。彼女、自分のチケットを持ってるので。情けないやら悔しいやら。 そして今になって部屋のものが盗まれてないか気になりましたが、やはりオタクですね。
気分はせっかく何日も徹夜して頑張って入稿した新刊のこととか、悔しさとか…そんなことで一杯になってました。
それでお昼ぐらいかな、漸く中に入れて、目に入ったのはガランとした机。新刊は?と呆然とするところに朝分かれた友人が来てくれて、ことの成り行きを説明してくれました。
なんでも押しかけの売り子たちがここで本を売って、その売上金を私に渡すと言う名目で握ったと ころを、彼女が…あの香葉さんが取り返してこの友人に預けたとか。ああ、またいい人度がアップしてしまって(泣)。
でも、泣き寝入りしたくないですよ。ここで言わなくちゃと思った私が口を開く前に、様子を伺っていたとしか思えないタイミングで彼女がやって来たんです。
手には、宅急便搬入をした私の在庫の箱を持って。
「これ、遅くなったけど出したらどうかしら」
「わあ、香葉さん!本当に親切に!ほら、美奈もお礼いいなよ!!」
…言えるはずがありません。もう、泣きたいんだか叫びたいんだか分からない私ににっこりと笑うと、彼女は 「いいのよ。でも、チケットなくすなんて災難だったわね。あの子達だったなら、見つけたらこっ酷く怒るわ。ね、元気出して」
そう言って私の肩を叩きました…。本当に、人当たりはいいんです。恐ろしいほどいいんです。
すっかり騙された友人は呆然とする私を彼女に手渡す形で、私の売上らしいお金を私のカバンに入れて自分のスペースに帰りました。
もう、私の心境はイベントどころではありません。
とにかくもう、いやで。凄く嫌で彼女から荷物を受け取ると、その足で宅急便出しに向かいました。
始まったらすぐに出して、帰ろうと思って。 そして、なんとか私は宅急便を出しました。これだけ回りに人がいるのに、怖くてたまらない。
今にも肩を掴まれそうで、私はもう泣きそうになりながら箱を送って、友人たちに会うのも嫌で逃げ帰りました。
それからとにかく部屋の中でなくなったものがないかとか、通販の為替とか…探したんです。
割といつも整理整頓してる方ですから、どうやらチケットのほかはなにも被害がないことが分かってほっとしました。
このときはまだ、頭が麻痺してる感じでもう、警察に電話をするとか、誰かに相談するとか思いつかなかったんですよ。
周り中彼女の味方で、私が悪者になる気がして。本当に怖かった…!
とにかく落ち着いてから、落ち着いてからと心の中だか口だかで呪文のように唱えながら、私はシーツをはいで洗ったり床を掃除したりしてました。この部屋に彼女の気配がかけらでも残るのが嫌だったんです。
心配してくれた友人の電話にも投げやりに答えて、とにかく私は怯えながら夜を迎えました。
今までこんなことが自分に起こるなんて思ってもみなかったし、いざこんなことになって、どうすればいいのか分からなかったんです。
それから夜、友人から電話がありました。私が適当に「具合が悪くて」と言ったのを信じてくれたんですね。今から来てくれるとのこと。
このときには私もずいぶん落ち着いてましたから、よかったよかったと思いながら待ってました。
それから数十分後、やっとドアがノックされて、すぐに友人だと分かったので喜んでドアの前へ飛んで行きました。
実は、一人暮しは危ないから、合図を決めてたんですよ。ノックの時は。
でも、でもとにかく言いたいことが沢山ありすぎてチェーンを外して開けたドアの前には、彼女が立ってたんです…!!!!
目の前に彼女が立ってるのが信じられなくて、私は硬直しました。頭なんか真っ白です。迂闊に開けた私が悪いんですが…。
「あら、顔色いいわねえ」
「ど、どうして知ってるの…合図のノック…」
震えながら言った私に、彼女は笑って答えました。
「帰りがけ会ったのよ。彼女、携帯のナンバー教えてくれたから。それで聞いたの。私がそばに行くって言ったら、あなた怖がりだからってすぐに教えてくれたわよ」
中に入ってドアを閉める彼女に、私は思わず後ずさりました。すると彼女も一歩踏み込んで、 手に持っていたまた沢山ものが入った袋を床に下ろしてからぐっと私の肩を掴んで言ったんです。
「心配しないで…。今晩、私がいてあげるわ。あの子たちのことも、心当たり探しましょうね。
チャットで会ったんでしょう?すぐ分かるわよ。…それより、」
言った瞬間、ぐっと間近に彼女の顔が寄って、肩に爪が食い込みました。
「あなた…あの子に余計なこと、言わなかったわよねえ…?」
肩が痛い!でも、何より誰かこの人どうにかして!!
思い出しても、まだ全身に鳥肌が立ちます。美人だけに怖いんですよ。あの時の肩の痛みも、忘れられません。
私は必死に首を振って「言ってない」と繰り返しました。なんて言うのか…殺人鬼に目の前に立ってほほえまれたら、あの時の彼女の笑顔になるんじゃないかとさえ思って…(泣)。
私の主観だし、実際彼女を悪者に奉ってるような気がしてきたんですが…。 でも、私にだって言い分はあるってことでご容赦下さい。
半泣きで部屋の中で立つ私には構わず、彼女は後ろ手にドアを閉めて鍵を掛け、入って来ました。
それから台所のところで思い出したように靴を脱いで並べて置いて、また私に近づいてずいっと袋を差し出すんです。
「ご飯、一緒に食べましょうか」
は、入っているのはまたしても肉、肉、肉…!!!
なんかね、この時はもう自分の妄想だと分かってはいるのですが、この時はその中の真っ赤な骨付き肉が人間の肉に思えてなりませんでした。
「一人で平気です。…帰ってください。あなたのこと、もう信じられません」
でも、ここで折れたら後がない!そう思って私は必死にそう声を絞り出して、そのお肉も彼女に押し付けました。
「あら…どうして?」
理由、わかってるでしょうに彼女、平然と笑って、お肉も受け取ってくれないんです。
私はもう一人で殺人鬼と対峙してる気分でした。
「私が悪者になってもいいです。もうやめて下さい。帰って下さい!出て行って!!」
思わず叫ぶと、彼女は私が差し出した袋を取って、
いきなり中のお肉の袋を引き裂いて、お肉を鷲づかみにして私の口元に押し付けてたんです!!!(号泣!!しかも大マジ!!!!)
びっくりするじゃないですか、こんなこと、普通しないじゃないですか。
私、思わずその手を払いのけたら、彼女は突然無表情になって言いました。
「お肉…生で食べるなら、それでもいいわよ?ただし、その場合は一人で食べなさいね」
私、もうなんか気持ち悪くなってトイレ掛けこんで吐いちゃったんです。
元々ストレスがすぐ胃に来る方なので。口の中に残る血と脂の味とか、匂いがもう…!!!
口元を押さえて振りかえったら、彼女は私につきつけたお肉を片手に持ったまま、無表情に立って私を見てました。
サイコホラーなんてものじゃありません…。実物に目の前に現れられたら、もう…もう…!!
「わ、私、気持ち悪くて今料理する気分じゃないんだけど…」
必死に、もう絞り出すように言っても、彼女、ただじっと私を見てるだけなんですよ。
いっそ、なにか文句言われた方が(泣)。
ただ私の繰り返す言い訳だけが空回りして、最後に彼女が言ったのはたった一言。
「だから?」
……。
–To Be Continued–
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