遠い昔の中学生時代、つきあって間もない彼女とスパゲティを食べに行った。
しかし当時、うちのおかんのレパートリーといえば、ナポリタンとミートソースのみ。
彼女の前で気取りたい年頃だった俺は、そんなベタなものは頼めないと見栄を張り、当時なんとなく聞いたことがあったような気がしたカルボナーラを注文した。
しかし俺の取り越し苦労をよそに、彼女の注文したのはミートソースであった。
それでも見栄っ張りな俺は「俺、スパゲティではカルボラーナが1番好きかなあ」と無駄口、すると無垢な彼女は「私カルボナーラって食べたことない、何が入ってるの?」と尋ねてきた。
俺は「ヤバイ」と焦ったが、幸い彼女の後ろ、別の客のテーブルにウエイトレスが、「カルボナーラと○○○○お待たせしました」と運んで来たのが見えた。
2つの皿のうち1つはトマトソースに貝やエビなどの魚介類が見て取れた、今思えばペスカトーレだろう、もう1つの皿は白っぽいクリームソース状で、その時確認できた具材はベーコンだけだった。
それを見た俺は、メニューの中に「ベーコンと何とかのスパゲティ」なる品名があったのを思い出し、とっさに(あの白いのは「ベーコンと何とかのスパゲティ」だ。
ということはあっちの魚介類のトマトソースのスパゲティこそが、カルボラーナに違いない)と判断し、「ナポリタンみたいなケチャップ味で、貝とかエビとかが入ってるやつだよ」と得意げに説明した。
さらに、「エビが丸ごと入ってるから好きなんだ」等と要らぬ付け足しを繰り返していた。
やがて運ばれてきたカルボナーラに「ここのカルボラーナはうちで作るのと違うなあ」などと哀しい言い訳を繰り返すばかりの俺に、気まずさを察知して無口な彼女。
しかも何度も繰り返す「カルボ“ラーナ”」という言い間違いに気付くのは、その後何年も経ってからだった。
カルボナーラをセブンイレブンで買って食べると思い出す、でも店では未だに注文できない。
カルボラーナ
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