小学生の時の話。
私が住んでいたのは瀬戸内の小さな島だったが、そこに一件のあばら家が有った。
もう随分長い事空家のようで、家の中は荒れ果てており私たちはその家を勝手に幽霊屋敷だと呼びあっていたのだった。
ある日、その空家を探検しようと言う事になり私を含む数人のグループでその家の中に入っていったのだ。
古い家なので玄関は引き戸で、錆付いていたのかどうやっても開かなかった。
仕方が無いので裏庭の方に回り込み何処からか入れる所が無いか探す事にした。
裏庭に行き、私達は一瞬息を飲んだ。赤いのだ、地面が。赤いペンキでもぶちまけたかのようだった。
真っ赤、と言う訳ではなく、どす黒い嫌な色の赤だった。
運良く私達は勝手口からその家の中に入れる事に気付き、家の中に足を踏み入れた。
人の出入りが長い間無かったのだろう、室内の空気は酷く淀んでいて、誇り臭かった。
暗かったので初めは解らなかったのだが、暗さに目が慣れるとその家の壁中に先ほど見た裏庭の地面と同じような
赤い染みがびっしりとこびり付いていた。染みの具合からそれは随分と前にその壁に付着した物のようだった。
私達はさらに家の奥へと足を運んでいった。
居間のような場所に出た。この部屋は赤い染みが一段と濃く、染み付いていた。
居間の中央には縦幅1m程の小さな箱、それはまるで風呂桶のような、がポツンと置かれていた。
その箱にはフタがかけられていて、如何にも何かが入っているようで私達は興味を引かれた。
「お前、開けろよ」、リーダー格の少年が私にそう言った。私は酷く恐ろしかったが好奇心がそれを上回っていた。
それほど重くないフタを私は持ち上げ、中を覗き込んだ。
中に入っていた物を見て、私は思わず「ウワァ」と叫び声を上げたのだった。中に入っていた物、それは生き物のミイラだった。
しかも、その生き物は明らかに人型をしているのだ。
そのミイラは二体、その箱の中に入っていた。全長50cm程の不気味な人間だった。人間の筈が無いが、人間としか思えなかった。
7~8頭身、赤子や猿の物ではなく、ましてや人形と言うにはあまりにも精巧な姿かたちをしていたのだ。
指先の爪は鋭く、また牙のような物が口からは覗いていた。「小人のミイラ」、そう呼ぶしかない物がそこには居た。
私達はあまりの恐怖にたまらずにその場から逃げ出してしまった。
ミイラ、つまりは死体である。そんな物を見つけてしまったのだから私達はすぐさま大人達にその事を告げ、一緒に来てくれる様に頼み込んだ。
だが、大人達は誰もそれを信じてくれなかった。ただ奇妙な事に年寄りの爺さん達だけは厳しく私達に「二度とそこへは行くな」と言うのであった。
翌日、そのミイラを再度見に行くべく私達は再びその家へと向かった。今度は先輩達も呼んである。
15人はいただろうか、流石にこれだけの集団なら怖くは無かった。しかしてそのミイラはやはりそこに有った。
今度はじっくりとそれを観察した。人形では無い、その場の全員がそれだけは誓ったのだった。
それから一年もしない間に、その空家は取り壊されてしまい今では立派な観光ホテルがその場所には建っているのである。
そのホテルを見るたびに、私は少年時代のあの不思議な経験をありありと思い出す。
廃屋のミイラ
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