大学院の入試があった。筆記をパスして、いよいよ面接。御偉い教授方が無理難題を吹っかけてくるわけだ。
『面接は控え室から』という言葉通り、忠実に背筋を伸ばし、背もたれにはもたれず。
絵に描いたような好青年で控え室で待っていた。 それで、俺の番。
面接会場行くまでの道筋も歩幅こぶし4つ分を守り歩いた。面接部屋に入る、もちろんノックしてからだ。
返事が無い。ここは臨機応変で堂々と入る。
…誰もいない
さ、さすがは天下のT大学、やってくれますね。
これほどの無理難題、面接マニュアルには載ってませんよ。
椅子に座る。もちろん先ほどの座り方で。
『面接官の一番見たいものは、その人間の素の顔である』
以前、そんなことを誰かから聞いたことがある。つまりこの部屋には隠しカメラがセットしてあり、この部屋で受験生の素の顔を観察しようという腹だろう。そこで俺は隠しカメラを意識しつつ思い切り素の顔を演じることにした。
「さて日課の筋トレでもするかな」
研究ばかりやっているモヤシではないことをアピール。 且つ、マイクが拾いやすいように大声で「あれ?この組成でやったら新しい化繊作れるんじゃね?」
腕立てしながら、世紀の大発見を思いつく天才少年ぷりを発揮。
「これを加水分解して…だめだ!!従来の化繊の生産効率を越えることが出来ない」
化学だけではなく、機械工学、経済学にまで通じてることをチラつかせる。
「さすがはデュポン社のウォレス・カローザス(ナイロン作った人)だぜ、すごいよ、あんた」
面接の常套句『尊敬する人は?』にさりげなく回答。その後も独り言を連発しながら腹筋、スクワットをし続けた。
ここまでやった俺が落ちたのは、T大学に俺を見る才能が無かったのか、俺が面接会場の部屋を間違えたのか、どちらかだ。
コメントを残す