受験の日、弁当にカツが入っててカジってみると衣のついたハンカチだった。
妹の仕業だ。ハラ減って受験どこじゃなかった。
弁当一個のおかげで人生狂ったって思って帰って怒り狂った。
さすがに母も怒って妹を叩いた。後で泣いてたが。
兄の俺が言うのもなんだが、妹は脳に障害があって、時々おかしなことをする。
歩くのとかもおぼつかなかったりする。
ゆっくり生活する分には、普通の女の子なんだが。 時々突飛なことする以外は。
家族で妹にイライラすることがあったら、みんなその後で後悔したりする。
ハンカチにも「おにいちゃんがんばれ」みたいなことが書いてあった。
彼女なりのエールだったらしいんだが、俺も母も余裕なくて怒ってしまった。
普通に考えればカツ一枚程度で空腹とかありえねーし、よくできなかった言い訳だったんだよ絶対。
その後、俺は無事大学に入れた。
大学に入ってしばらくすると、妹の容態が悪くなった。
喋るのとかもしにくくなったみたいで、病院に入院することも多くなった。
呼吸器でシューシューいいながら、何を思い出したのか「ハンカチごめんね」ってしょっちゅう謝られた。
俺が弁当箱を壁にブン投げたり、母が手を上げたことなんかなかったから、心に刺さってたのかもしんない。
「あんなん全然平気」って言うのに、泣きながらハンカチごめんを繰り返す。
俺の方がゴメンだよ。もう謝らないでくれ。
だんだん悪くなる病状に家中が落ち込んでいたので、ボロボロ泣いてしまった。
その後、2年ほどして、その言葉も聞けなくなることになった。
週末、妹が旅立つんだ。
難しい手術したから病気もだいぶよくなって、ちょっと足が遅い以外ほとんど普通と変わらなくなった。
あんな妹でもいいって言ってくれる物好きがいて結婚するんだって。
俺よかだいぶ年下なんだけど、すげえ優しい男だ。
俺よりずっといい大学出ていっぱい働いてる。
よかったな!おめでとう!!
妹をよろしく頼みます。
兄貴からお願いです、ほんとうに、幸せにしてやって下さい。
で、遅ればせながら式場にお願いしてあいつの食べるケーキにハンカチ入れることにした。
この善き日に復讐さ…ククク。
ハンカチってすげーまじーんだぞ思い知れ。
書いてあることを人前で読んだりしたら、俺が即死するんでやめて下さい。
コメントを残す