おれは今22歳の誕生日を迎えようとしている。
家族は姉、母、血の繋がっていない父がいる。
おれが7歳のとき離婚したのだ。
おれが小学校のとき学校から帰ってくると家には親父がいた。
母は働いて帰りが遅いし、姉も遊びに行ってしまっていなかった。
毎日毎日喧嘩ばかりしていた親。やさしくなんかなかった親父。
その親父がおれにファミコンを持ってきてくれた。
勿論うちは貧乏だって幼いながらわかっていた。
友達の周りにはスーパーファミコンを持っているヤツがチラホラ出てきたころだ。
でもおれは嬉しかった。
しかし感謝の言葉がうまく出なかったのを覚えている。
ドクターマリオも買ってきてくれたので二人して遊んだ。
親父はすぐ帰ってしまった。
母に来たことは内緒なと言われたがそのとき意味はわからなかった。
その日から母の帰ってくるまで毎日二人でドクターマリオをやっていた。
ただ純粋に幸せだった。
ずっと厳しかった親父。すぐ殴る親父。おれにも母にも。ずっと嫌いだった親父。
だから感謝の言葉が出なかった。
中学に上がり自然と親父とは会わなくなってきた。年に数回会うくらいに。
おれが19歳のとき、親父は大腸癌の為、亡くなった。
涙が、止まらなかった。何故か、止まらなかった。
いい思い出なんかなかったのに・・・。
今この歳になり、あのとき親父がおれにしてくれたやさしさがわかった。
淋しかったおれの為に・・・。
おれの部屋にはまだファミコンがインテリアとして置いてある。
彼女にはいい加減捨てなよと言われるが笑って流している。
捨てるわけにはいかない。大切なものだ。
素直に『ありがとう』と言えなかった後悔を忘れないために。
今いくら言っても届きはしないが、この場を借りて
ありがとう親父。
そして今日もホコリをかぶったファミコンにはドクターマリオがささっている。
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