JR京葉線・新日本橋駅に部下『N』のと二人でいた時の話である。
私たちは一番後ろの車両に乗りたいと、下り線ホームの東京駅に一番近い側に立っていた。
その壁際のところに、奇妙な人の形をした染みがあるのに私は気がついていた。
「気味が悪いなあ。まるで女性が手招きしてるみたいじゃないか。」
なあ、と同意を求めて振り返ると、後ろで部下がうずくまってしまっている。
「どうした。」
「課長…助けてください。」
この部下は、ものすごい霊感の持ち主だった。そういう場所、そういうものにあうとすぐわかる。
「どうしたっていうんだ。」
「ひっぱられるんです、助けて。」
うずくまり、上体は後ろに反らしているというのに、彼の足はズズ、ズズ、とホームの方へずれて行くのである。
真っ青になった私は、とにかく彼を壁の方に引いて、ホーム中央に移動した。
彼が引きずられた距離はたかだか15、20センチだが、あのままではいずれ転落だったはずだ。
「何があったんだ。」
「課長、あの染み、見ました?。」
「ああ、人の姿みたいで気味悪いやつな。」
「…あの染み、女の人なんですよ。」
「え?。」
「あー、いるなー、と見てたら、目があっちゃったんです。
そしたら壁が一面無数の手になって伸びてきて、ぼくのことひっぱったんです。
…あれはすごく悪いものです。普通の人も近寄らない方いいですよ。」
部下は震えていた。
その後、新日本橋駅は改装されて、問題の染みも上から塗り直されたのだが、最近私はまた見てしまった。
塗り直した上に、人の姿の染みが再び浮きだしているのを…。
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