序章でも老婆の霊の話を聞いた人達が霊を見てしまったエピソードをお話しました。
この(終章)もその事件から一年以上たった後に起こったエピソードです。
老婆の霊から開放されて随分と月日も経ちまして、私も高校三年になっておりました。
老婆の霊の事などすっかり忘れきっていたのです。
しかし老婆はまだ成仏していなかったのです。
事の発端はこうです。
私は友人と他愛も無い長電話をしておりました。
時刻は正確には記憶しておりませんが、九時過ぎ頃だったと思います。
友人の口からこんな質問がされました。
「噂で聞いたんだけど、修学旅行の時すごかったらしいね。俺にもその話聞かせてよ。」
そう。彼は三年になってからの友人で例の話は噂づたいでしか知らなかったのです。
久しぶりに思い出した老婆の顔に薄ら寒いものを感じましたが、時間というのは恐ろしいものです。
私にその話をさせる余裕を与えてしまったのです。
し始める私。
息を呑む友人。
話し始めて一分もしないうちに・・・・・。
「おい!ちょっといいか?」
友人が私の話を止めました。
「どうした?」
いやな予感を感じつつも私は彼に問いました。
「いや、気のせいかなぁ・・・・・。」
「だからどうしたんだよ!」
私は語気を荒げて問いました。
「うん・・・・・。なんかおまえの声の後ろに変な音が被るんだよ。TVかなんかつけてるか?」
私はTVなどつけてはいない。
「なんか変な・・・・・。」
そこまで言うと、彼は電話を切ってしまったのです。
どうしたと言うのでしょう。
私は再度、彼に電話をかけました。
『ガチャ』
「おい!どうしたんだよ!?」
私の問いかけに返事がありません。
「おい!冗談はよせよ!」
電話の向こうから微かな呻き声のようなものが聞こえてきました。
『ウウウゥゥゥゥ・・・・・。』
私はわけがわからず問い掛けるばかりでした。
「おい!おい!しっかりしろよ!」
「・・・・・・ん・・・・ゴメンゴメン・・・・なんか眩暈がして・・・・・。」
友人の声だった。
彼曰く、突然眩暈がして倒れこんでいたのだそうです。
私は病院に行く事をすすめましたが「大袈裟な」と、取り合ってもくれません。
そして彼は話の続きをしてくれと持ちかけてきたのです。
私は断ったのですが、どうしてもと頼み込む友人に根負けして続きを話し始めました。
数秒後・・・・・。
彼はまたしても私の話を中断しました。
また聞こえてきたと言うのです。
先ほどの音が。
「あれ?なんかおかしいぞ。おまえ誰と話してるんだ?」
妙な事を言う。
「何言ってんだよ!おまえと話してるに決まってるじゃねぇか?」
「いや、俺とおまえの他に話し声が聞こえるんだよ。」
「どんな?」
「なんかお婆さんの声みたいな・・・・・。」
総毛立ちました。
私は彼に電話を切る事をすすめ、受話器を置きました。
次の日、学校に行くと彼は欠席。
心配になった私は彼の自宅を尋ねました。
彼の母親に案内され彼の部屋へ。
彼はベッドに横になりうなされていました。
彼の母親曰く、昨日の夜から突然発熱して寝こんだままだと言うのです。
彼は私が来てる事もわからないようでした。
うわ言で『熱い・・・・・熱い・・・・・。』と繰り返すばかり。
私は以前、霊媒師の元で学んだ霊媒を試みることにしました。
酒と塩を用意し、彼の前で祈祷しました。
彼の体を叩き、彼の体から憑き物を出そうと必死でした。
数十分後。
彼の手がすさまじい力で私の腕を鷲掴みにしました。
そしてカッと目を見開きこう言ったのです・・・・・。
『無駄だよ・・・・・。井上が滅びるのをこの目で見るまではな!』
そう言って彼は再びベッドに倒れこんだのでした。
意識の戻った彼には寝込んでいた時の記憶はありませんでした。
いつまで私を苦しめるのでしょう・・・・・。
それ以来、老婆の霊は現れていませんが、いつ何時再び私の前に姿を現すのではと、気が気ではありません。
そう。
恐れているのは、この話の全容を知ってしまった貴方の身の上です。
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