あれは、半年ぐらい前の話になります。
あの頃も今のように俺は怪談に嵌っていました。
そのときは親友と言っていいぐらいに仲のいい友達と一緒になって、オカルト雑誌を買い漁ったり、オカルト番組を夢中になって見入っていたりしていました。
そんな仲のいい仲間内の一人に、とても恐がりで怪談なんかするとかなりオーバーなリアクションをするYという奴が居たんです。
そいつをからかってやろうという話になるのは、自然の流れだったと思います。
計画なんて言うほどのものじゃないけど、大体こういう風にやろうというのはすぐに決まりました。
まず友達のKがYの家の屋根に昇っておく。それを確認したら、俺がYの家に遊びに来たと偽って入る。
そして用意した怪談をどんなに恐がっても無理に聞かせる。それはこんな内容です。
「あのさ、昔今の俺達みたく怪談に嵌りまくってたグループがあってさ。その中にやっぱりお前みたいにすっごい恐がりな奴が居たんだよ。
それでその人達のあいだでそいつを脅かしてやろうって話が出てさ。
一人が屋根の上に上って、別の人達がその人の家に行って怪談をするって計画でさ。
で、みんなで散々恐い話したあと、ワッ!って声を合図にしてコンコンって窓を叩いてやろうってことになってたんだよ。
でも決行の日はちょうど雷鳴り捲りの豪雨の日でさ。
みんなは危ないから止めようって言ったんだけど、悪戯が大好きな屋根の上に上る予定だった人が大丈夫だって言い張ってさ。
仕方ないからやることになったのな。で、計画通りみんなしてその恐がりの人の家に行ってさ。怪談を暫くしてたんだよ。
けど、おかしいんだ。何度合図しても、どんなに大きな声出しても、いつまで経っても窓鳴らないんだよ。
いくら嵐でも、窓になんかコンコン当たったりしたら分かるだろ?でもみんな注意してるけどその音が聞こえないんだ。
そうやって仕方ないから時間流れるの待ってたんだけど、いきなり外から物凄い大声がしてさ。
みんな嫌な予感がして、大慌てで外に出たんだ。そしたら、さ。落ちてたんだ。その友達。屋根から。
首とか足とか変な方向に曲がっててさ。その後は大騒動だよ。もう死んでるに決まってるけど救急車だ警察だって。
みんなもちろん警察で事情聴取受けてさ。家に帰ったらぐだっって疲れちまったってね。
でもな、この話はまだ終わらないんだ。寧ろその後が本番でさ。
出たんだよ。その死んだ友達が。迎えに来たんだ。生き残ったやつらを迎えに。
毎晩一人づつ、例の計画の通りにコンコンって窓が鳴ってさ。
恐いから無視しても、10回音が鳴ると…しんじまうんだよ。
そしてその10回目の音が鳴ってそれでも無視したとき、近所中に轟くような叫び声が聞こえるんだ。
『また俺を見捨てるのか!!』」
最後の叫び声を合図に、Kに窓叩いてもらう予定でした。
決行の日は、小雨が降ってました。ハッキリ言って悪い予感しました。
だって考えてた話とあんまりそっくりじゃないですか。
これも話とそっくりなんだけど、俺は必死になって止めました。でもKのやつ物凄い乗り気で。止めきれなかったんです。
仕方なくYの家に行って、俺は怪談を始めました。前持って考えてたやつ。シトシト雨が降ってて気持ち悪いぐらい静かな夕方でした。
計画通り、話し始めました。案の定Yのやつは物凄く恐がって、聞かない聞かないって耳塞いじゃったんだけど、それでも大声で聞かせました。
そして最後大声で合図をして。
胸が痛いぐらい鳴って、時間が流れるのが長過ぎるように感じました。そうして5分ぐらい経った後。
ドサ!
大きな荷物を投げるような重たい音がして。もちろんその音がなんなのか、俺には分かってました。でも体が固まったみたいになって動かなかった。
Yが窓際に行って、外を覗いて。
「ヒッ」
って変な声出して、その後おぼつかない足取りで慌てて下に走って行きました。そのあいだも俺は全く動けなくて。
救急車が来て。警察が来て。考えてあった話となにもかもソックリで。
警察からの帰り道。
ずっと考えてました。冷たいって思われるかもしれないけど、悲しさよりも先に恐怖心が立って、出るな出るなって思ってました。
でも真っ暗な人気の無い道を通りかかったとき。
ズルズルって、這いずるような音が聞こえてきたんです。這いずるにしても、手だけで動いてるような。大きな音。
振り返ることも出来なくて、でも足がガクガクいって、早足にもなれなくて。咽がカラカラに引きつれたような感じになって、叫ぶことも出来ません。
そうやってトロトロしてると、ガシッって足を掴まれました。凄い強い力で、たちまちの内に引き倒されてしまって、何かが俺の上に圧し掛かって来ました。
分かってたんです。というより信じ込んでました。きっとそれはって…
やっぱりそれはKでした。
肉がめくれあがって、原型をとどめない無残な顔が俺の顔のすぐ側にありました。でも4年越しの友人の顔を見間違えるわけありません。それは確かにKでした。
俺は必死な声で「ごめん!俺が悪かった!もっと止めればきっとお前が死なずにすんだのは分かってたんだ!本当にごめん!」そう叫びました。
しかし、Kは肉の削げた顔でキョトンとした表情を作ったあと、口元をニタァと歪ませて、俺をどんどん暗がりへと引っ張っていきました。
このままでは本当に命が危ないと思った俺は、無我夢中で手を振りました。それがKの顔に当たり、ほんの僅かに力が緩んだ隙をついてなんとか逃げ出せました。
そして今ここで、こうしてその恐怖を書き留めています。Kはどうなったか?
今でも居ますよ。俺の背中に拠り掛かっています。
また俺を見捨てるのか!!
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