14年前、北陸へ旅行に行った。
車で越前海岸を走っていたが、あいにく快晴とは言えない天気のため、そして前日に宿泊した旅館で夕食に出たカニを食い過ぎたせいか、俺も彼女も体調不良で、海を見てもきれいだねという言葉も出ないような状況で車を走らせていた。
しかも、3台前を走っているマイクロバスがノロノロ運転しているせいでスピードも出ないし、何というか調子が出ないとでも言うのか、ストレスを抱えたまま走っている感じだった。
せっかくの夏の旅行なのになー。
そんなことを思っていた時、彼女が一言。
「ごめん、ちょっとそこに寄って」
海岸沿いにある土産物屋の駐車場に、ほったて小屋のように建てられていたトイレに寄って欲しい、と。
そうだね、少し気分を変えよう、ということで、トイレ休憩を取った。
ついでに隣にある土産物屋をぶらついて店から出てきた時だった。
・・・雷?
なんか、ズ~ンとした、腹にひびくような感じがした。
何だろう?
とか思いながら車に乗り込んで、地図を確認してからいざ走り出そうとすると。
急に道路が混み出しているではないか。
おいおい、事故かぁ?
勘弁してくれよ~、せっかくの夏の旅行なんだぞー?
・・・その数日後だった。
越前海岸での崩落事故で、マイクロバスが完全に巻き込まれ、乗っていた全員が死亡する、という事故の惨状を聞いて、俺は凍り付いた。
あのとき3台前を走っていたマイクロバス。
ズ~ンという、落雷のようなひびくように感じた音。
あの時、彼女が「そこに寄って」と言っていなければ、俺は今この世にいなかったのかもしれない。
今は俺の女房になっている彼女に、あの時ほど感謝したことはなかった。
彼女に足を向けて寝てはいけません!
なんという幸運