高3のとき、オレ夜一人で留守番をしていたのヨ。
その時は丁度10月頃。「秋」って感じの静かな夜。
虫の声が外から聴こえてきてて、リビングでマターリ。
リビングの隣は両親の寝室になっていて、そこには古いドレッサーが置いてある。
鏡台ってやつかな。大きな鏡がついてる机。
何を思ったのか、オレはその鏡の前に立って「なんとか拳の構え」みたいなポーズをとりつづけた。
…他人に見られてたら多分恥ずかしさで死ぬ。
その部屋はさっき書いたようにリビングの隣。
襖で区切られた部屋だったけど、いつも襖は全開。
リビングの照明つけていたから、その部屋の明かりはつけてなかった。
ちょっと薄暗がりの中鏡に向かって怪しいポーズをするオレ。
と、目を閉じて瞑想→ゆっくり目を開くことをした時。
鏡の奥。薄暗い部屋の奥の押入れの前に、誰か人が立ってる。
??
洗濯物かなとはじめは思った。
でも違う。
ちゃんと足がある。体格からして男。
リビングから届くわずかな光で肩から下は確認できたが、ただ、暗くて顔がどうしてもわからない。でも結構若かったと思う。
微動だにしない鏡の中の男。
俺の頭の中で、「泥棒」とかの外部侵入者の推測は一切吹っ飛んだ。
何か「ヤバイ」ものだと頭が理解(認識)した瞬間。
オレは足を肩幅に開き両手を前に突き出した「瞑想の構え」のまま硬直した。
鏡の中のそいつから目が離せなくなる。
虫の声と、時計の「チッチッ」という音がいやによく聴こえる。
「動いたらマズイ」とか、「振り向いたらヤバイ」だの勝手な解釈でオレには鏡の男を見据えたまま動くことができなかった。
と、男の体が僅かに動いた。肩を上下に揺らしている。
…こいつ、笑ってるんだ!
なのに、「クックック」とかの笑い声も何も聴こえない。
初めて体中がゾクッ! と恐怖に包まれた。
歯を食いしばってるオレ。
ただ肩を上下させ笑い続けるそいつ。
嘲笑してる感じがした。
と、男が突然歩き出した。
「こっちに来るな!」と思った矢先、そいつはリビングの方に消えていった。
鏡からそいつが消えてから、「うわぁ!」と意味の無い声を張り上げたオレは全速力で自分の部屋に戻って布団にくるまり震えた。
家族に言っても誰も信じちゃくれないし、そんな男には心当たりは無いと。
以来、そいつには会ってない。
よくわからない体験だった。
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