十数年前のこと
デハ1000の上り通勤電車の車内は現在と違って、揚げた手も下ろせないような超満員だった。
車内はともかく早く着いてくれという思いのサラリーマンでぎゅうぎゅう詰めだった。
電車が日の出町を過ぎてそろそろ横浜駅にさしかかろうという時、今でも忘れられない車内放送があった。
「みなさま本日も京浜急行をご利用下さいましてまことに有難うございます。毎日のご通勤お疲れ様です。本日は天気が良く空気も澄んでおりますので左の車窓からきれいな富士山がご覧になれます。お疲れ様でした、まもなくヨコハマ、ヨコハマです、お出口は右側です。」
左車窓が見える人は、人の頭の間から思わず外に目をやり、遠く見える冬の冨士を眺めた。
数十年間の通勤地獄人生で、いちばん素敵な車内放送だった。
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