20代の頃の話。男友達から『もう付き合えない』と手紙が来た。
彼には非常に仲睦まじい恋人がいるのだが、自分と面識は全くない。
しかし彼女は、十年来の付き合いで、未だに彼と当時の仲間で遊びに行ったり呑んだりする私に物凄く嫉妬し、友人であるのはおろか、私が存在してることそのものが嫌だと言うのだそうだ。
ある時など、狂ったように錯乱して「殺しに行く」と叫んだそうだから。
全然そんな付き合いじゃないのに、友達として、本当に友達として凄く大切だったのに。
もう付き合えないのか、会えないのかと、呆然としながら、昔から今までの思い出を涙をボロボロ流しっぱなしで一夜明かした。
翌朝とんでもなく腫れたまぶた・充血した目で出社した自分を、上司が呼び止め「どうしたんだよ、花粉症ひどいのか?」と訊いてきた。
上司と部下とは言え、中壮年ばかりの凄く小さい職場で、一番歳が近いせいもあって個人的な相談をする、される事があり「親友が、彼女に君と付き合うなって言われたから、って絶縁をしてきた」と思わず正直に話すと、上司はちょっと苦笑いをしながら
「そりゃしょうがないよ。お前より彼女を選んだって事なんだから。だけどさ、ソイツがもし彼女と別れて、お前にもう一度連絡を取ってきたら『私はそんなに都合のいい人間じゃないよ!』って殴るなり蹴飛ばすなりしてやれ、な」と言った。
口が悪くて、職場では『すちゃらか課長』とまで呼ばれるような上司なりの優しさが伝わってきて、部屋に2人しかいないせいもあり、もう泣きすぎて目が痛いというのに涙が止まらなくなってしまった。
そして先日、人づてに彼と彼女が結婚したという話を聞いた。
彼との記憶や絶縁は、もう苦い思い出として昇華してしまった。
だけれど、幸せを祝う事さえもされたくないのだろうと思うのが少し辛い。
そして、上司のあの台詞を実行に移せなかったな、と思うと、あの時の上司の優しさを思い出すと寂しい。
でもそれももう全て過去の出来事となり、涙が流れないことが一番悲しいかもしれない。
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