夏休みに入って間もない頃の体験。
この日私は野球観戦の為、〇陽電鉄バスM駅前発G駅前のバスに乗る予定だったが、用事が長引いてしまいとても急いでいた。
自宅からM駅まで10分かかるのだが、この時間がもったいなく思った為に走って向かった。
その時、いつも踏み切りを通るのだが、その踏み切りは、いわゆるあかずの踏み切り。
引っ掛かってしまうと約3分は待ちぼうけになる。
更にこの踏み切り、人身事故が絶えない。
その時は何事も無く通り過ぎる事が出来、なんとかバスに間に合った。
そして友人と合流し、観戦を楽しんだ。
九回裏、5対4。フルカウント。
投手が最後の一球を投げた。
最後の足掻きとして打者が打った。
しかし、凡打となり試合終了。
今はその投手がヒーローインタビューを受けている。
私達は人混みを避ける為に、最後の方まで球場にいた。
人も少なくなった所で帰る事にした。
友人達とバス停で別れ、最終バスに乗り込んだ。
私はいつも後ろに座る。もう癖になってる。
私が一番始めに乗り込み、後から人が乗り込んでくる。
1人、2人、2人、1人、…、私を合わせて15人が乗り込んだ。
そして聞き慣れた運転手の説明を聞く。
「毎度有難うございます。このバスは00系統、M駅前行きです。…。」
バスが発車した。運転が荒い。
気にせずに窓の外の風景を見つめていた。と、言っても真っ暗だ。
何も見えない。かろうじて街灯の辺りが見える程度だ。
バスが停車した。
普通こんな所には置かないだろうと言う所にバス停がある。
人が乗り込む。
すると大体のバスは入った分だけブザーが鳴る。
三回鳴った。さすがに降りる人はいないようだ。
バスが停車した。2人降りた。ブザーは鳴らなかった。
停車。3人降りた。ブザーは鳴らない。
停車。降りる人はいない。2回ブザーが鳴った。
通過。
通過。
通過。
停車。二人降りた。ブザーは鳴らない。
このまま終点まで通過し、私を合わせた12人全員は、終点で降りた。
私がバスを降りるのはいつも最後だ。この時もそう。
11人を見送ってから私はカードを精算機に通した。
「これ、昼割りのカードやで」と、運転手が私を見上げると、怪訝そうな顔をした。
すいません。と謝り、小銭で支払い、バスを降りた。
「またかよ…」と運転手が呟くのが聞こえた。
他の人が精算の時に同じ事を繰り返していたので、それで不満が溜まって愚痴がこぼれたのだろうと思った。
運転手は気が短い。よくある事だ。
そう思い、歩いていると、前にいたおばあちゃんが私を見て、「危ないねぇ…」と私に言った。
「はい?」と聞くと、「あんた、つかれてるねぇ…。あたしが途中まで送ってやるよ。」と、おばあちゃんが言ってくれたのだが、今はもう11時半。
おばあちゃんがいることすら怪しい…。
疑った私は、「いえ、大丈夫です。」と言い、速足で歩き出した。
「気をつけるんだよ。危ないからねぇ。」と、おばあちゃんが声を張っていたが、今の時間は警邏が回ってるので聞く時間が惜しい。
だが今は警邏がこの付近を回る時間ではない。大丈夫だろう、と大通りにある踏み切りを通ろうとした。
…しまった。鳴り出した。あかずの踏み切りだ。
まだ少し距離があるので間に合わない。遮断機が下りはじめた。
……?
今止まった?
ささいな事だった。引っ掛かったような感じだった。
調子が悪いのだろうと思った。
電車がくるまでには少し時間がかかる。
渋々待っていると、反対の踏み切りからはっきりと笑い声が聞こえてくる。
バスを降りた時から聞こえていた気がするが、今度ははっきりと聞こえる。
高い。女性の声だ。声の方向を見ると誰もいない。
…まさか。と、思った瞬間、電車が通った。
このパターンでは二台通る。
一台目が過ぎさった。
大体間髪入れずに奥の二台目の電車が通り過ぎる…
!!
いた。
女性だ。
線路内にいる。
すると、案の定特急電車が通り過ぎた。
明らかに轢かれたな…
私は動揺しながらも携帯を片手に持ち、110を押しながら、ふと前を見ると、
………ない。
特急が人を跳ねれば、必ず肉やら内臓が飛び散るはずだが、何もない。
まだ笑い声が聞こえる。
さすがに怖くなって走り出した。
踏み切りから少し離れた所で、いきなり身体が重くなり止まってしまったが、振りほどいて逃げようとした。しかし、動けない。
10分程こうしていると、前から警邏が赤色灯を回して走って来る。
すると、突然動けるようになり、抵抗が無くなり、反発していた力が解放されその場に転がった。
私の前でブレーキをかけ、警官が出てきた。
私は、すぐに体制を立て直した。
まだこの地域のパトロールではないはずを思い、尋ねた。
「踏み切り付近で血まみれの狂気じみた男が、身体に腕や足や内臓を絡ませて暴れていると通報があった。その男の近くに口の裂けた女の首があるらしい。…ん?隣の子は彼女か?もう遅い、早く送ってやれ。」
と、言われ、はい?と、聞き返した。
「君の隣にいる子だ。同じ紅い色の服を着て、よほど仲が良いんだろう?」
クリサリスさん(男性)よりの投稿
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