私には小学校の時の遊び仲間で藤井という奴が居ました。かなりヤンチャで、俺達いつも先生に怒られるような事ばかりしていました。
例えば、誰もいない体育館のど真ん中でウンコをしたり、女子トイレの汚物入れの中身を、鉄棒に一枚ずつかけていったりと…。
(今では、このくらい普通でしょうか?)
そんな、倫理感の欠如した藤井が昼休みの終わり頃、腹が痛いと言い出しました。
俺は、早くトイレに行ってこいと言ったのですが、みんなが出入りするトイレで、ウンコは出来ないと言うのです
たぶんバカにされるのが嫌だったんでしょう。(小学生だし…
「もう休み時間終わるから誰も来んようになると思うけど、とりあえず、向こうでしてくるわ」と、藤井は旧校舎の便所に走り出しました。
その旧校舎の便所は誰も近寄らないくらい気味の悪い場所で、小便は、壁そのものにオシッコをするような作りで、大便の方は木のドアの古めかしい「ぽっとん便所」だったのです。
当然、電灯もありません。
「あいつ、勇気あるなぁ…」
俺には当時、それぐらいにしか感じなかった出来事だったのですが…。
彼と、やっと再会したのは2ヶ月前の同窓会。あの、明るかった藤井がまるで別人のように暗い。
何かあると思った私は、悩み事を聞いてやるからと、藤井に取り入りました。
「どないしたん?暗い顔して。会社か?ストレス溜まるやろ。不景気やしなぁ。話せば少しは楽になると思うんやけどな。」
「え、いや、そんなんちゃうねん。」「ほんなら、なんや女の事か?」
「そんなんとも、違う…。」(えーい、いったい何やねん!
「勿体ぶらんでええやん。俺でよかったら力になったんで。」
藤井はポツリとはなし始めました。
「俺ら、小学校のとき、ずっと一緒やったやろ。」「ああ、確かにな。」
「俺一人で、旧校舎のトイレに行ったこと覚えてるか?」藤井はうつむきながら聞いてきた。
「当たり前やン!あんな怖いとこ一人で行けんのお前だけや!俺、今でも嫌やで!」
「あん時な、何でか知らんけど、大の方の扉、全部閉まっててん。」
「全部か?」「全部って言うのはおかしいかな、一番奥のトイレだけ空いてた。」
俺は、何故か聞いてはいけないものを聞いてるような錯覚に陥りました。
「俺な、しゃあないから一番奥のトイレでウンコしたんや。薄暗い便所やけど採光の窓あるから他よりは、ましやったかも知れへん。」
俺は藤井が話すトイレの話が怪談めいてるのが気にはなりましたが、そのまま黙って聞いていました。
「ぽっとん便所の下見るとな、底の方で小さく自分の顔が明かりに照らされて写っててん。それがな…」
藤井はゆっくりとこっちに振り向き、俺の顔をのぞき込んだ。
「便所の底に写ってた顔がいきなり暗くなって消えたんや!」
「顔が消えたんか?」
「ああ、そん時はさすがに恐怖が襲った。それで俺は周りを見渡した。」
何か、だんだん俺の指先に力が入らなくなってきた。
これ以上聞かない方がいいのかもしれない。
「周りを見渡して、ふと、採光の窓をみると俺の事をまるで恨めしそうに、じーっと見ている男の顔がそこにあってん。」
藤井の顔が青ざめていくのが判る!
俺はただ無言で、藤井の話を聞いていた。
「そして、その男は俺に、こう言うたんや。」
『…なんや、男か…。』
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