私は靴も履かずに表へ出て駆け寄りました。
トラックの二つの後輪に頭を突っ込むように倒れているちーちゃんが居ました。小さな手足が、時々ピクッピクッっと痙攣するように動き、タイヤの下には赤黒いシミが広がって行きました。お母さんは、私に気付くと両肩にしがみつき
「なんとかしてぇ~~っ!なんとかしてくださぁ~いぃ!!」
揺すりながら泣き叫びました。その時のお母さんの顔は一生忘れないでしょう。いつも微笑みを湛えた優しい顔は夜叉の様になっていました。
お母さんは、呆然と立ちつくす私から手を放すと、倒れたままのちーちゃんを抱き締め、車の下から引っ張りだそうとしました。
……ブチッ…ンッ!……。
お通夜、お葬式、両方とも参列しました。
お母さんは一気に20歳くらい歳をとったかのように老け込み、お悔やみの言葉にもウツロな眼で力無く頷くだけでした。
あの日、いつもの時間にお母さんが帰って来ていたら…。
あの日、幹線道路が道路工事なんかしていなければ…。
あの日、私の家側でなくアパート側で遊んでいれば…。
いくら悔やんだって、ちーちゃんは帰っては来ません。
それから、しばらくたった蒸し暑い夜の事です。
寝苦しさに目を覚ました、その時です。身体が動かせない事に気付きました。『ああ、これが金縛りか。』そんな事を考えていると
網戸だけ閉めた窓の外でマリを撞いているような音が…。
ポンッ!…ポンッ!…ポンッ!…ポンッ!…ポンッ!…
『何か変だな?』妙な違和感を感じていました。そのうち、音が移動した様に感じました。今度は明らかに部屋の中で聞こえています。
ベッドでなく畳の上に布団を敷いて寝ていたのですが、その足下辺りから聞こえてきます。
ポンッ!…ポンッ!…ポンッ!…ポンッ!…ポンッ!…
不思議と怖さは感じませんでした。『ちーちゃんがお別れを言いに来たんだな。』
そんな風に思ったんです。その時、ずっと感じてた妙な違和感の正体が解りました。マリの弾む音がリズミカルじゃないんです。
あんなに上手だったのに…。
ポンッ!…ポンッ!…ポンッ!…ポンッ!…コロッ…コロコロコロ…
失敗しちゃったみたいです。足下で撞いていたマリが顔の横まで転がってくるのが解りました。取ってあげようとしたのですが
相変わらず金縛りで動けません。その時、転がってきたモノが…。
「お兄ちゃ~ん、遊ぼぅ~!」って…。
–END–
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