蒼太の病気が見つかったのは中学3年生の秋だった。俺と蒼太は家も近所で幼稚園に入る前からの仲で…
ときには殴り合いの喧嘩もしたし、口を聞かなくなったこともあった。
でもいつだって原因は俺がつくってて、優しい蒼太は俺をいつも正しい道に引き戻してくれた。
蒼太は周りに弱い姿は一度も見せなかったけど、それでもずっと一緒だった俺には蒼太の体が弱っていくのが痛いほどわかった。
同じ高校に入学して、蒼太がモテることを改めて実感した。俺にも彼女が出来た。
「蒼太はさぁ、なんでモテるのに彼女つくらねーの?」
「モテないし!笑」
「こないだ鈴木に告られただろ?俺、蒼太は鈴木が好きだって思ってたから、断ったときビックリしたよ」
「あー…鈴木のこと好きだよ」
「は?じゃーなんで?」
聞いてから気付いた…あいつ、泣いてたんだ。蒼太はさびしそぉに笑いながら言った。
「だって俺じゃ鈴木を幸せにしてやれないだろ?」
時々廊下で鈴木とすれ違ったときに、蒼太は眩しそぉな顔で鈴木を見つめていた。
俺の視線に気付いくと「俺、格好わりぃな!」って無理に明るい顔して…そんなこと言われたら、俺まで切なくなるじゃん
高2の春に通院では追いつかなくなり、蒼太の入院が決まった。
毎日病院に通った。あいつ、病気のこと俺にしか言ってなかったから。
友達からの誘いも、彼女からの誘いも全て断って、蒼太のところに行った。
気がついたら俺はクラスで孤立するようになっていた。毎晩の彼女からの電話もいつからかこなくなった…
そんなある日、いつものように見舞に行くと蒼太のベッドに一枚の紙が置いてあった。
『健康な光介見てるとまぢムカつく。もぉ来んのやめろよ。』
次の日から俺は病院に行かなくなった。それが蒼太の優しさとも気付かずに…
徐々にクラスの奴らとの関係もよくなり、彼女とも上手くいくよーになった。
毎日が楽しくて、蒼太のことも忘れかけた夏休みの終わりの日。
いつもの遊び仲間と花火をして疲れきって充電の切れたケータイを握ったまま眠りについていた。
夢に蒼太が出てきた。
―久しぶり。元気そぉでよかった。―
「…おー。体調の方はどーだよ?」
―お蔭様でもぉ病院出れるよ。―
「まぢっ!?」
―…ごめんな、あんなことして。―
「もぉいいよ!退院したらまた一緒に学校行こうぜ!鈴木にもちゃんと告白しろよ?俺の新しい友達も紹介するから、みんなで遊ぼうな!!」
―…。―
返事のかわりに蒼太はさびしそぉに笑った。
―母さんと美穂が泣いてたら、お前が笑顔にしてやってくれないか?―
「自分の親と妹だろーが!笑」
―俺たち兄弟みたいなもんだろ?―
「…まぁな。わかった!」
―…お前が居てくれてよかったよ。―
電話の音で目がさめた。泣きながら母さんが俺の部屋に来た。
すでに充電が切れたケータイをにぎりしめて夜の病院まで走った。
俺はお通夜にも葬式にも行かなかった。あの夢を見た夜から、俺の時間は止まったままだった。美穂が来るまでは…
「お兄ちゃんと最後に何話したの…?」
蒼太のケータイの発信履歴を見せながら美穂が言った。俺は急いでケータイを充電器に繋いで通話履歴を見た。
「…夢じゃなかったんだな」
俺のケータイは寝る前にはすでに充電が切れていたし、電話に出た覚えもない。
蒼太も1週間前から昏睡状態が続いていて、電話が出来たとは考えられなかったらしい。
ありえないのかもしれないけど、あの夜確かに俺は蒼太と話したんだ…
この通話履歴はいつまでも踏み出せずにいる俺に『俺がついてる』って蒼太からのメッセージなのかもしれない。
あれから五年、俺は結婚して子供が一人生まれた。男の子は母親に似るって言うけど、ホントなんだな。
蒼太みたいな優しい子に育ってほしくて、『優太』って名前を付けたんだ。
ホントにビックリだけど、俺は美穂と結婚して、ホントにお前の兄弟になったんだ。
お前のお母さんも、妹の美穂も、優太も、俺がちゃんと守るから…
蒼い空から見守っててくれよ?
最後の電話
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