ある日、わたしは母の部屋で会話をしていると、
門の開く音がしました。
「誰か来たね。」と母。
私は条件反射的に玄関へ向かいましたが、ドアはノックされません。
外をうかがおうとドアをあけました。
その時、グッと別の力が加わり、
何者かが私の横をサーッと通りすぎた気がしました。
しかし、勿論、誰の姿もなかったのです。
わたしは腑に落ちないまま、母のいる部屋に戻り、
「誰もいなかったよ。」と言うと、
母は
「お盆だから、ご先祖様がお戻りあそばれたのかしら。」
と、こともなげに言いました。
その日の夜、母は仕事に出かけていました。
家には私一人でした。
なんだか眠れず、私は深夜テレビをボーッと見ていました。
午前1時は越えていたでしょう。
人間の視界というものは案外広いものです。
私はまっすぐテレビを見ていたのですが、
他のものも見てしまったのです。
廊下を髪の長い白装束の人が
すーっと歩いていたのです。
その人は廊下を音も無く移動し、母の部屋の方へ入っていくのでした。
私はただただ、動く事ができません。
「お盆だからかな。あれはきっとご先祖様なのだろう」
と私は心の中でつぶやきました
その後、トイレに行く時ですら
廊下で鉢合わせしそうで恐ろしかったのですが、
ご先祖様なら母の部屋の仏壇の中に入ったのだろうと
都合よく思いこむ事にしました。
気を取り直し、いい加減に寝ようと思いTVのスイッチを消しました。
その時、何かの気配を背後に感じたのです。
私は振り返る事ができません。
そこには、暗くなったTVの画面に
私が反射して映っています。
その私の肩越しに白装束の人が、
逆さまに天井からぶらさがっている
のが見えたのです。
(終わり)
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