沼津のフィリピンパブで飲んでたら奥で出番待ちのフィリピーナどもが何やら騒いでいる。
見ると1人が床に転げて太股もあらわに泣きわめいている。
俺に付いている子に聞いたら「窓の外に誰かいる」って騒いでるんだそうだ。
今日で2度目だそうだ、「カノジョ、ココロ、ビョーキ、カワイソ、ナ」と顔を曇らせた。
「どこの窓?」って聞いたら「あれ」と指差す。
「え・・・?」と思った。
俺にもさっきから人影が見えていた。
隣に部屋があって誰かが仕事していて時々窓からこっちの様子を見ているんだと思っていた。
近づいて見ると部屋など無い、窓の外は道路を隔てて隣のビルが見えるだけ。
覗き込むと下には道路が見えた。人の立てる場所など無い。
騒いでいた女の子はスタッフに抱えられてアパートに帰された。
その時は恐いとは思わなかった、只々不思議である。
もう人影は見えない。俺は酔ってはいない。確かに人影が見えていた。
俺はその子に興味をもった。
少し見ただけだけど、後になってみると、ものすごく俺好みの可愛い子だった気がする。
会いたいと思った。話を聞いて何とかしてあげたいと思った。
すぐにも行きたかったが連れ合いの予定がつかなくて、ひと月が過ぎてしまった。
店に行くとちょうど開店時間で扉が開き20人ほどのピナが並び「イラサイマセー」で俺達を迎えた。
その子の姿は無かった。
お付のピーナに聞くとクビになったそうだ。
彼女に「俺も窓の顔を見たよ。」と話すと、驚いた顔をして立ち上がってカウンターに消えた。
暫くすると彼女は店長を連れてきた。
俺、何かまずい事言っちゃったのかな、と思ったが、店長は丁寧に頭を下げた。
ー以下店長の話ー
「A子は問題を起こすので辞めてもらったんですよ。」
「あの騒ぎの翌日にはステージで歌っているお客さんの顔が無い、首から上が消えてると騒いだんです。」
「他の女の子もパニックを起こしてしまい・・・。そんな事でA子は辞めさせました。」
「せっかく来て頂いたのに申し訳ないです。他にもいい子が沢山いますのでゆっくりしていって下さい。」
それだけ話すと店長は下がった。
お付のピーナは真剣な瞳で俺の顔を見て「チョトマッテ、ナ」と立ち上がった。
次にA子と同部屋のC子を連れてきた。周囲の子もこっちの様子を見ている。
深刻な事態が起きているようだった。
C子の話によるとカラオケの客は亡くなったそうだ。
店長の話しぶりから薄々そんな気がしてはいたが、
まさかと思った。単に店に来ないだけではないのか?確かめてみたのか?
あんなことがあったので来るのが嫌になったのでは?
俺の問いかけにC子は黙って顔を横にふった。
問題の窓には額縁が打ち付けられていた。
例の顔が中に入ってきそうになったので店長が塞いだのだと言う。
ソファーの配置も変えられていた。
更には女子トイレに何かが出たそうだ。
「イマモ、ダレカ、ナカニ、イル。」「デモ、ダレ、ワカラナイ。」
「モシ、ナカニハイル、タブン、頃サレル。」と言う事だ。
なるほど、それでさっきから女どもが入れ替り立代わり男子トイレに出入りしてたのか。
そのつど2人で入っては片方が個室の外で見張っている。
店は暇だった。騒ぎがあってからずっと暇なのだそうだ。
俺の連れはそんな事もお構いなしに若いお付におさわりしている。
女達は怯えているのに相変わらずKYな奴。
再び店長が俺達の席に来た。
この店のシステムで時間が来ると延長するかどうかスタッフ又は店長が客席まで聞きに来る。
俺はさっそくカラオケの客の事を聞いてみた。
店長は席に座り、俺ににじり寄ると耳に顔を近づけてヒソヒソ声で話しを始めた。
「本当です。騒ぎの翌々日に倒れたそうで、その2日後に病院で息を引きとりました。」
「あの晩は、A子が騒ぎ出してそれが周りのタレントにも伝染してみんな泣き出してしまったんです。」
「私も見てみましたが、無いんですよ、お客さんの首が・・・。」
「いえね。最初はライトの加減で見えにくいんだろうと思ったんですよ。でもね、本当に無いんですよ。」
「背広の上にマイクが宙に浮いているだけで。後ろの鏡にも肩から上はマイクしか映ってないんですから。」
「こんな事もあるんですねぇ。あれからA子は店に出していません、先週フィリピンに帰しました。」
店長は嘘をついている・・・A子がまだ沼津にいる事はさっきC子が内緒で教えてくれた。
近くのピンパブで働いていると言う。店の名を聞いて俺達は外に出た。
で 続きは?
ポポブラジル